教育実践学研究3. 3-11. 1996.

教師の実践的力量形成を支援する
授業リフレクション研究

その1 授業研究演習システムの開発

A Study of a Self-Reflective Methods for Teachers, Part 1 :
Development of an Analytic System of Reflective Teaching Methods

澤本和子
SAWAMOTO, Kazuko
(教育実践研究指導センター)

概要:本論考は、近年問題となっている教師の実践的力量形成を支援するための、授業研究演習システムの開発研究について述べている。まず、近年の教師教育や教育実践研究との関係を視野に入れた、教師の実践的力量形成研究を概観する。ついで、こうした動向から、筆者の視点を明らかにする。すなわち、教師の実践的力量形成は、実践過程の省察、精緻で誠実かつ的確な洞察により可能であることを述べる。そのために必要なデータとして、現状ではビデオデータが有効であることから、これを利用してふり返りを実施するためのツールとして、本システムを開発したことを述べる。
キーワード:実践的力量形成 授業研究 授業リフレクション研究 ふり返りデータ

○はじめに 

 現職教員の実践的力量形成研究プロジェクト (代表:澤本和子) は、 1994年9月9日から研究活動を開始し、 「教師の実践的力量形成を支援する授業リフレクション研究」 をテーマとした。 授業研究演習システムを利用するため、 その開発研究プロジェクト (代表:佐藤博) と共同研究を進めた。 毎週1回程度のシステムソフト開発研究会を、 大学側のスタッフ (佐藤博、 並木信明、 澤本和子) と業者 :(株.) アシスト A.S.S.T. パイオニアビデオ. (株.) で行い、 その成果を月毎の本プロジェクトの研究会で検討した。 1995年8月末日にソフトを導入。 その後、 事例研究を含む実践的検討を行い、 1996年3月末に第一次の開発を完了した。 以下では、 まず教師のリフレクティブな授業研究方法の理論的背景、 実践的力量形成の視点を述べ、 本システムの概要を述べる。

1 教師の成長・発達研究と授業研究

 1) 教師の成長・発達論と実践的力量形成
 教師の力量形成は今日深刻な問題となっている。 近年、 その基底となるべき教師の成長・発達研究は、 伝統的教育学のパラダイムの転換あるいは教師モデルの転換と方法的革新に向かいつつあるように見える。 この節では、 まず最近の教師教育研究、 発達科学、 教育工学、 教育方法学の動向を概観し、 教師の力量形成観の転換と方法改革の方向を展望する。  はじめに教師教育研究の分野から概観する。 澤本和子 (1993) 1) は近年の教師教育と授業研究の動向を概観する。 それによれば、 佐藤学 (1990) 2) や今津孝次郎 (1992) 3) は教師モデルの転換を指摘する。 たとえば佐藤は、 技術熟達者 (Technical Expert) モデルから反省的実践家 (Reflective Practitioner) モデルへの転換を提起し、 reflective study が教師の実践的力量形成に資すると共に、 その成長・発達を保障するとした。 また今津はStenhouse,L.らの'teacher as reseacher'モデルと 「教師の発達teacher development」 や 「教師の専門性発達 professional develo-pment 」 を紹介し、 モデルの転換を1980年前後とする。
 次に教育心理学では、 竹下由紀子(1992)4)がエスニックな手法まで含めて、 先行研究の整理と展望を行う。 そこで教授学習過程研究が教師を軽視してきたと指摘した上で、 近年の研究の進展を (1) 授業に関連する教師の意識研究 (2) 教師の学習者認知 (3) 教師の動機・信念 (4) 教師の成長に整理する。
 また日本教育工学会では、 定量的分析手法への反省から定性的研究への関心が高まりつつある。 これは上掲の分野と同様、 英米の研究に呼応する動向といえる。 実践的力量形成や授業研究関係の研究が活発化し、 両者をクロスさせて検討する試みもある。 1995年の第11回大会 (十文字学園女子短期大学) 課題研究 「教師教育システムの再検討」 では、 吉崎静夫らの初任者の実践的力量形成研究をはじめ、 生田孝至、 西之園晴夫-後掲-、 三橋功一が提案し、 研究方法、 システムの検討・改革について討議した。
 伝統的な教師の発達モデルと力量形成観の転換と研究方法の問題は、 1996年3月の日本教育工学会研究会 (日本女子大学) シンポジュームでも討議された。 「授業研究と教師教育の方法論」 のテーマで、 浅田匡、 生田孝至、 澤本和子、 奈須正裕の4人が、 内省記述、 調査用紙、 マルチメディアシステム、 対話的手法、 認知心理学的手法などを用いた内省的な研究方法を提案し、 現象学的アプローチも含めて検討した。
 教育方法学では平山満義 (1992) 5) が、 その学問的自立に向けて、 実践界が切望する 「教育効果要因の特定とその検証という課題」 への対応を、 統一的に整理すべき時期だと提起する。 さらにこれに応える意味でも、 文献中心の研究方法に実証的研究を導入する教育方法学の再構築を展望する。 期を同じくして、 文献研究でも再検討・再評価、 パラダイムの転換の動向が表れる。 例えばドイツ教授学では、 渡邊光雄 (1992) 6)や阿部好策(1994)7)らが今日的視点から考究する。 このように伝統的教師モデルと力量形成観の転換と、 研究方法の革新は今日的テーマだといえる。
 澤本和子 (1996a) 8) は、 こうした学習観の転換に伴う教師モデルと力量形成モデルを提案した。 即ちレイブら (1994) 9) の正統的周辺参加 'legitimate peripheral parti-cipation' による知的な実践共同体'commu-nity of practice'のリーダー、 あるいは支援者として授業を創造する教師、 という発達モデルを提起した。 教師の実践的力量は実践上の問題に取り組んで解決の展望と意義を見いだそうとする価値志向的な営みととらえる。 その際、 実践場面を中心とする情報の収集・加工処理能力・文脈的思考力が、 教師の意思決定を左右することから、 この方面の能力を重視するとともに、 学習者に働きかけるレトリカルな能力が必須だとする。 この能力は人間関係への透徹した眼差しや洞察力と共に、 科学・哲学に基づく複雑で微妙な技術で、 大学の学部レベルの教育で完結するものではない。 それは教師が生涯をかけて成長・発達することをとおして体得可能なものといえる。
 2) 教師の実践的力量形成と現職教育
 1) から、 従来の実践的力量形成観と現職教育の方法の問題が理解できる。 前述の佐藤学 (1990) は、 現行の情報受容中心の教員研修方法の改革を提起する。 また、 西之園晴夫 (1995) 10) は、Elliott(1993) 11) の(1) 理念的・合理主義的見方 (2) 生産/消費システムー'社会-市場'的見方 (3) 解釈学的見方、 を引いて教師教育制度改革の動向を概観、 展望する。 (1) は伝統的視点、 (2) は行政的視点、 とし、 (3) は実践科学としての可能性を持つ方向として評価する。 その理由は次の通りである 12)。
 教師教育改革理念を検討する国際会議が近年多数開かれ、 1974年以降日本も出席している。 そこで、 「教師の成長に応じた継続的な生涯学習の視点からの教師教育の連続性をどう実現するか」 が討議された。 一方、 近年の科学哲学の立論は、 論理実証主義による科学的知識を疑い、 解釈学を基盤とする実践科学を主張するとして、 日常的教育実践と連動した研修システムを評価する。 つまり認識者を離れた客観的知識を科学とする伝統的論理実証主義の克服を提起し、 同時に 「批判的 (critical) あるいは、 熟慮的 (reflective) な立場から自らの認識や行動を検討する実践科学」 の構築と、 そのための批判的action研究の方法論が世界的に研究されていると述べる 13)。
 具体的には、 day release 制度(週1日半あるいは2日の勤務校外研修)、 block release制度(1-3ヶ月の勤務校外研修)、 sandwich re-leas制度(半年間毎の勤務校外研修を数年間繰り返す)や、 夜間大学による修士号の授与(合衆国・カナダ)、 公開大学 Open Univers-ity(イギリス)、 遠隔地教育(オーストラリア)による学位取得の現職教育を評価する。 一方、 現行の新構想教育大学(鳴門など)のシステムの構造的欠陥を提起する。
 これを1) の筆者の見解に加えれば、 教師の実践的力量形成は、 文脈的思考や状況認知を含む情報能力を視野に入れた実践的内省的な研究を重視すべきかと考える。 しかもこの方法は教員の資質観の転換も展望する。 すなわち、 組織に依存的同調的でともすれば自己を集団に同化させることを偏重してきた伝統的教師モデルから、 自立的批判的かつ共生・協調的教師モデルへの転換を志向する。
 3) 実践的力量形成とリフレクション研究
 1) 2) から、 教師の実践的力量とその形成を、 次のようにとらえる。
1. 教師の力量は教育実践に即して考えられるべきものである。
2. 実践的力量のうち、 本研究では、 意識化し言語化し対象化できる実践場面に関わる技術を抽出し・研究対象とする。
3. そこで実践場面に表れた技術から、 暗黙知・身体知など無意識的な知識から2に該当するものを教師が意図的に使い分け行使する技術として抽出し、 データ化し検討する。
4.教師の意思決定の本質は文脈や状況に依存するため、 力量形成は授業改善を通して進めることになる。 このとき教師と学習者を中心とする授業参加者の内面データを採取し、 授業の文脈に即して研究する。
5. 従って、 実践的力量形成を目指す授業研究では、 授業者がみずからの実践過程を内省的に研究する方法を重視する。
 上の視点は、 井上裕光・藤岡完治 (1995) の '気づき self-awareness'の形成を支援する 「カード構造化法」 14)、 吉崎静夫 (1995) のビデオ再生法 15)、 稲垣忠彦 (1986) の 「授業カンファレンス」 16) にも含まれる。 また澤本・お茶の水国語教育研究会 (1996) 17)は、 教育実践家=研究者のための内省的授業研究方法、 授業リフレクション研究を提起する。 小田迪夫 (1996) は、 この方法は内省と熟考を重視する実践的力量形成として、 野地潤家の評価を得た 「近代国語教育史における内省派の伝統」 の歴史を継承・発展したもの、 と評価する18)。
 授業リフレクション研究では、 実践過程での学習者と指導者の内面過程を映し出す手がかりとなるデータを採取し、 これを授業者あるいは学習者が内省的に検討する。 人は自分の姿を鏡で見るが、 教師や学習者はデータを鏡的に利用し手がかりにしてふり返る。 これがリフレクション研究の出発点である。
  「授業リフレクション研究」 は、 ビデオ記録や内省記述、 各種の調査資料などを用い、 授業主体が自らふり返ることを、 研究方法の出発点とする。 従来の自己内省データ採取方法では主観性と妥当性が問題にされた。 本研究ではビデオデータを利用した授業リフレクション研究の妥当性を高めるために、 その支援システム=授業研究演習システムを開発した。 その際、 使用するリフレクションの語義、 とくにふり返る主体としての自己 (ego,ich,I) とふり返る対象となる自己(self,mich,me)や、 ふり返りについては、 澤本和子(1994a)19) に述べた。 この見解は、 野村一夫 (1994) 20)や押見輝男 (1992) 21) を参照した。

2 教師の力量形成を支援する授業研究演習システムの開発

 1) 授業reflection研究と本システムの開発
 従来現職教員の授業研究では、 経験的手法や記述的手法による分析、 あるいはビデオやカセットテープによる記録を使った。 しかし、 データ採取の方法や分析方法の妥当性が問題となることが多かった。 そこで、 今日多用されるビデオデータに対象を絞り、 データの作成方法から分析・考察の方法を開発する研究を進めた。 そして、 この研究にとりくむ教師を支援するマルチィメディアシステムを開発した。 それがこのシステムである。
 1993年度、 本教育実践研究指導センターでは授業リフレクション研究を進める教師を支援するツールとして授業研究演習システムを構想し、 概算要求書の提出を希望した。 関係各位の協力を受け、 幸い希望が実現した。 そして1994年、 ソフト開発と並行して、 reflect-iveな研究方法の開発を行った。
 ところで、 前掲の小田のほか、 澤本和子 (1994b) 22) も、 日本の国語科教師のself-ref-lectionの伝統に触れ、 芦田恵之助の教師の成長・発達論を考究した。 self- reflectionへの主観性、 妥当性をめぐる批判は多い。 これに対して、 澤本和子 (1996b) 23) はセルフリフレクションに加えて、 「集団的」 「対話的」 リフレクションを経てセルフリフレクションに収束するself-reflective method を表1の手法で提案する。
 人は自分の姿を見ることができないので、 self-reflectionでは、 授業中の教師や子どもの姿を映し出すふり返りの装置がいる。 これが授業データである。 授業データにはビデオ映像の記録をはじめ、 教師の指導記録、 子どものノートや感想文などがあり、 これを手がかりに授業分析を行う。 表1は研究の順序を示すものではない。 たとえば、 「3.原因の検討」 は、 「2.問題らしきものの意識化」 に続くこともあれば、 「4.仮説的問題発見」 や 「5.仮説設定」 に続くこともあり、 他の機会にも実施する。 対話的・集団的リフレクションは3-(6)、 11などで実施するが、 授業実施者自身が自分の授業評価・実践場面の解釈などをある程度意識できる場合と、 そうでない場合など、 条件に応じて導入する時期と対話や討議の方法上の配慮がいる。
 これまでの結果から、 宗我部義則(1996)24) の指摘のとおり、 リフレクションに際して、 データの重要性が問題となる。 これは研究の精度を高める上で、 必須のことといえる。 指導者の指導効果の是非を問うためだけでなく、 学習者の認知・情意過程をたどり、 教材の質を学習者との関わりで判断し、 授業の文脈を理解するなど、 reflection =ふり返りの中軸となる作業に関係する。 そこで、 2) のシステム開発を進めることとした。
 2) 教師のself-reflectionを支援する授業研究演習システム
 本システム開発の意図は澤本和子(1996c)25)に詳述したので概略を述べる。 今日ビデオカメラは全国の小中学校に普及したが、 録画したデータの利用については、 研究方法やそれを利用した教師の実践的力量形成の研究方法は未だ確立されていない。
 ビデオ記録を利用した授業研究方法はすでにいくつか提案されている26) ので、 この成果に学びつつ、 研究精度を高めた教師の自立的研究方法の確立を目指す。 そこでこのためのツールとして授業研究演習システムを構想し、 山梨大学教育学部附属教育実践研究指導センターに導入し、 開発を進めた。 本システムを利用すると、 文字データ中心の研究方法に比べ、 より精度の高いマルチデータを利用した実践研究が可能となる。 (図2)

表1 授業リフレクションの方法

  1. 自己の授業実践へのこだわり、納得していないことの意識化
  2. 1についての反省→問題らしきものの意識化
  3. 原因の検討
    (1)カリキュラム、教材
    (2)教師の指導方法
    (3)子供自身の何らかの問題
    (4)直接的教育環境;施設・設備等
    (5)間接的教育環境;社会・文化・歴史的背景等
    (6)その他;
    (1)授業記録・授業資料の検討1
    1. ビデオ記録・発話プロトコル分析
    2. 児童の記録(ノートなど)の分析
    3. 教師資料の分析など
    (2)第三者との授業に関する情報収集:参観者・観察者などの意見聴取
    (3)先行研究・先行実践事例の参照検討
  4. 仮説的問題発見
  5. 問題の課題化―仮説設定
  6. 仮説に基づく研究計画の立案・設計
  7. 6に基づく実験授業のための教材研究、立案計画
  8. 7の実験授業実施
  9. 8の記録作成.自省記録作成;"事中反省 reflection in action"に留意
  10. 9の分析・考察
  11. 10の第三者との協同的・批判的検討と対話的考察
  12. 以下、析出した課題による5〜11のスパイラルな展開・発展

3 授業研究演習システムの概要

 1) システム (ハードウエア) の構成
図1 システム構成概念図  1度だけ書込みができる追記型VDRとパソコンがセットになった単体の研究システムは、 神戸大学の浅田匡助教授が開発した。 その後のハードウエアの進化を受け、 本研究では書換型VDRを用い、 研究用のほか教育用も含むネットワーク環境での利用を考慮し、 新たなソフト開発によるシステムを構築した。  授業研究演習システムの概要は、 システム構成概念図-図1のとおりで、 学生用ユニット (パイオニア製書換型VDRとNetware で結んだWindows パソコン Cannon Innov-a) 6、 教師用ユニット (VDR2台、 モニタ2台、 VHS・8mm対応VTR2台) 1、 これをネットワークで結んだサーバ、 およびプロジェクタ・音響装置一式の4部分から構成される。 サーバにはレーザープリンタとカラープリンタを接続。 学生用ユニットには1ユニットで8人のヘッドホンシステムが付いている。
 2) システム (ソフトウエア) の構成開発したソフトは2種類ある。
(1) 授業研究演習ソフト
(2) ディスク編集システム
    A.素材編集機能  B.同期編集機能
 (2) のAは教室で録画した2本のビデオ記録を同期再生、 あるいは1枚のディスクに編集するソフトである。 これを利用して、 複数のビデオデータを同期再生視聴しながら、 リフレクション研究ができる。 レーザーディスクの特性を生かし、 瞬時にアクセスができ、 問題画面での停止、 スローモーション再生、 リピート再生など自在に操作できる。 現在多用しているのは、 複数台のカメラで撮影した異視点のデータを同期再生して、 教師の教授行動と学習者の学習行動を対比的に検討したり、 問題場面を100箇所まで自由に指定して抽出し、 ビデオプリンタに出力するなどして利用している。 またこのソフトを利用して、 VDRのもつ高度で多様な機能を生かした教材作成もできる。 Bは教師用ユニットのディスクを学生用ユニット6台にフレーム精度0 (1フレーム=30分の1秒) で同時記録するソフトである。
 3) 本システムを利用した開発事例
図2 授業リフレクション研究の概念図
 図2はデータ採取・作成からリフレクション研究までの手順で、 (1) 〜 (4) になる。
(1) データ採取  (2) ディスク編集
(3) データ作成入力  (4) データ分析
 事中反省=reflection in action、 事後反省=reflection on action/reflection after actionは、 佐藤学の見解 27) を取り入れた。
 (1) では研究視点を明確化し、 必要なデータを採取する。 例えば一斉指導形態では、 最低2台のカメラで撮影し、 教師と子どもの映像と音声を後で同時に確認可能にしておく。 音声の採取は、 2台のカメラのうち1台のカメラのステレオ入力の左右に、 教師のワイアレスマイクと、 スタンドに立てたマイクから採取した音声を別々に録音した。 この方法では選択した音声で複数の映像を同時に自由に視聴できる。
 (2) では採取した記録をレーザーディスクに録画する。 (3) では発話プロトコルをまず作成し-図3、 次に映像プロトコルを作成する-図3。 (4) (3) をもとに、 データ分析を行う。 分析記述カードに入力して、 カテゴリ分析もできる。 このとき、 編集や頭出し、 再生視聴も、 Windowsパソコン上でクリックして、 30分の1秒ごとに指定した箇所=アドレスを呼出し、 適当に早さを変えて視聴できるので、 ふり返りが円滑に進められる。
 これまで本システムを利用して得た成果の一部を以下に掲げる。
a.教師のほめことばに対する子どもの反応に関する研究:澤本和子 「教師のほめことばの検討-マルチデータ処理による教育実践研究の提案-」 日本国語教育学会 『月刊国語教育研究』 第289号.1996年5月.pp.48-55.
b.学生のシミュレーション授業によるメタ認知的学習方法の研究:佐藤博・澤本和子 「教師教育のための self reflective method の開発」 日本教師教育学会年報第5号.1996年.pp.129-139.
c.教師の学習者認知をめぐるreflectionを用いた授業研究:浅川栄司・小林進・志村香代子・他 「教師の実践的力量形成を支援する授業リフレクション研究-その2 集団リフレクションによる単元学習事例研究」 後掲.pp.13〜21
図3 カードエディタ画面

4 成果、 課題と展望

 1) 成果
 授業研究演習システムは、 生涯発達視点から教師の発達をとらえ、 授業を中心とする実践的力量形成のためのシミュレーション思考とリフレクション用のツールである。 ビデオ記録を文字、 音声、 映像の授業データとしてマルチに処理して、 データベースが作成できる。 これを利用して、 実践過程と実施後の指導者・学習者の認知・情意過程を考察する。  これまでの事例研究から、 共通的な成果も出始めた。 たとえば、 学生の模擬授業では指導者がメタ認知的に指導過程をふり返る作業が、 本人には辛いが認識を深める契機となる点である。 とくにデータ処理結果が明示され、 省察の根拠が明確になる。 また、 授業者のリフレクションに立ち会い、 集団あるいは対話リフレクションに参加した観察者や学習者役を演じた者は、 指導過程における教師の学習者認知の実態をメタ認知的にたどる作業が意義深いこと、 教師の意思決定に学習者からとった学習過程の情報が決定的な影響を与える点、 教師が瞬時 (30分の1秒間) にとらえる学習者情報に力量の差が表れると同時に、 そこに限界がある点などが実感を伴って理解されたこと、 リフレクション過程の省察に立会う授業者以外の教員の研究意欲をも喚起することなどがあげられる。 このように、 実践家 (研究者) との協同研究を通して、 教師たちは研究体験が学習体験ともなるプロセスを内省的に理解し、 これを契機にしてこれまでの自分の教育実践を見直す視点を学んだと述べる。 実践家である教師たちは、 多数の経験的知識や教訓的知識をもつが、 それを学習者・自分の働きかけ・教材との関係で、 データを利用しながら明確化し熟考する機会は限られている。 それゆえ、 このように大学の研究者と現職教員が協同的に研究を進めることの意義があるといえる。
 2) 課題と展望
 課題の第1は、 パソコン初心者の多い現状に対応する環境整備の問題がある。 当初に比べ大幅に改善したが、 ユーザーのリテラシーを高めるのに数日程度の研修を要する点や、 専門家のサポートがいる点が問題である。
 第2に、 現職教員や学生が利用するとき、 スタンドアローン用ソフトの開発があげられる。 これを使えば遠隔地の教員と協力して研究を進められるので、 事例の蓄積が容易になる。
 第3に、 本システム開発の目的の他にも、 当初予想した以上に多様な可能性が考えられる点である。 たとえば、 アニメーション作成を含むビデオ教材作成、 ビデオ編集などが従来の編集機に比べて格段の差で容易な点などである。 最後に、 DVDの開発をにらむソフト開発も考慮中である。
 これまではソフト開発とユーザーの利用環境整備を開発の中心とせざるを得なかった。 関係各位の協力を得て今日に至り、 ようやく授業リフレクション研究中心に進める環境も整った。 今後は事例を蓄積し、 方法の妥当性を高め、 初任・中堅・ベテランの比較、 教科の比較なども考えたい。 また、 県や甲府市の教育委員会とのパイプを生かし、 現職教員研修プログラムに利用する方向も検討したい。

補注

1) 澤本和子 (1993) 「教師教育研究の成果を国語科授業研究に照射する」 山梨大学教育学部紀要第7号.1993年.
2) 佐藤学 (1990) 「現職教育の様式を見直す」 柴田義松他編著 『教育実践の研究』 図書文化、 1990年, pp.238〜240
3) 今津孝次郎 「教師専門職化論の新段階」日本教師教育学会年報創刊号、 日本教育新聞社 1992年 pp.58〜59 p.66,69
4) 竹下由紀子(1992) 「展望 教師の心理ー最近の研究の動向ー」 教育心理学研究第31巻1992年.
5) 平山満義(1992) 「[認知媒介的]教師効果研究パラダイムによる授業研究法」 日本教育方法学会、 教育方法学研究、 第18巻.1993年pp.75-76
6) 渡邊光雄(1992) 「W.クラフキの[二面開示]に基づく教育事象の解釈」 同上 pp.1-9
7) 阿部好策 (1994) 「ドイツ教授学のパラダイム転換-授業とコミュニケーションの理論を追って-」 同上第20巻 1995年 pp.31-41
8) 澤本和子(1996a) 『学びをひらくレトリック-学習環境としての教師』 金子書房.1996年
9) レイブ、 ウェンガー(1994) 『状況に埋め込まれた学習 正統的周辺参加』 Lave,J., & Wenger, E., 佐伯胖訳 産業図書 1994年
10) 西之園晴夫 (1995) 「教師教育パラダイムの違いと現職教育制度」 日本教育日本工学会第11回大会課題研究発表 JET,Nov.3-4 1995年. pp.55-56.
11)ELLIOTT,John 'Reconstructing TeacherEducation' 1993,The Falmer Press. 10) による。
12) 10) に同じ。 p.56
13) 10) に同じ。 p.56
14) 井上裕光・藤岡完治(1995) 「教師教育のための 『私的』 言語を用いた授業分析法の開発ーカード構造化法とその適用」 日本教育工学会:日本教育工学雑誌.Vol.18, No.3/4. 1995年3月
15) 吉崎静夫 (1995) 「授業における子どもの内面過程の把握」 水越敏行監修、 梶田叡一編著 『授業研究の新しい展望』 明治図書
16) 稲垣忠彦(1986) 『授業を変えるためにー授業カンファレンスのすすめ』 国土社.1986年
17) 澤本和子・お茶の水国語教育研究会(1996) 『わかる・楽しい説明文授業の創造-授業リフレクション研究のススメ』 東洋館出版.1996年
18) 小田迪夫 (1996) 「展望:授業リフレクション研究への提言 2国語科 説明文指導の視点から」 前掲書17) p.178
19) 澤本和子(1994a) 「子どもの<振り返り>、 教師の<振り返り>」 『教育フォーラム第15号<振り返り>自己評価の生かし方』 金子書房 1994年12月
20) 野村一夫(1994) 『リフレクション-社会学的な感受性へ』 文化書房博文社 1994年pp.38-39
21) 押見輝男(1992) 『自分を見つめる自分-自己フォーカスの社会心理学』 サイエンス社.1992年
22) 澤本和子 (1994b) 「教師の成長・発達と学力形成-芦田恵之助の自我主義的学力形成論の考究」 山梨大学教育学部紀要第9号 1994年 pp.214-240
23) 澤本和子 (1996b) 「第V章授業リフレクション研究の方法」 前掲書17) pp.141-16224) 宗我部義則 (1996) 「授業リフレクションとデータの問題」 前掲書17)pp.171-172
24) 宗我部義則 (1996) 「授業リフレクションとデータの問題」 前掲書17)pp.171-172
25) 澤本和子 (1996c) 「教師のほめことばの検討ーマルチデータ処理による教育実践研究の提案」 日本国語教育学会 『月刊国語教育研究第289号』 1996年5月 pp.48-55
26) 藤岡完治 (1995) 「授業者の 『私的言語』 による授業分析ーカード構造化法の適用」 及び吉崎静夫 (1995) 「授業における子どもの内面過程の把握と授業改善」、 水越敏行監修・梶田叡一編 『授業研究の新しい展望』 明治図書、 稲垣忠彦(1986)- 前掲書 16) -、 藤岡信勝 (1991) 『ストップモーション方式による授業研究の方法』 学事出版がある。
27) 佐藤学 (1993) 「教師の省察と見識=教職専門性の基礎」 日本教師教育学会年報第2号日本教育新聞社 1993年. pp20〜35

<付記>

 本研究は科学研究費補助金基盤研究(c) 「教師の発達を支える授業リフレクション研究方法の開発」 課題研究番号07680226 による。

*チェック済み(97/7/17新藤,97/7/24成田)