教育実践学研究3. 43-51. 1996.

コンピュータと英語教育
インターネット時代のLL教育

Computer and English Teaching :
Language Laboratory Methods in the Internet Age

並木信明
NAMIKI, Nobuaki
(外国語教室)
概要:戦後日本の英語教育でテクノロジーを使った最初の試みは、1960年代から1970年代にかけて文部省の肝入れで全国的に広まった視聴覚教育である。映画、スライド、レコードなどの利用に加えて、ランゲージ・ラボラトリー(LL装置)という語学演習用の特別教室までが中学高校に配置されて一時は大いに脚光を浴びた。しかし、LLは時代がたつにつれて次第に利用されなくなった。LL教育衰退の主な原因は、それを支えてきた構造言語学や行動心理学的方法が科学的に批判されて理論的根拠を失ったためである。もう一つはLLは操作が難しいという神話をLL担当者が作り上げ、一般の教師に対して見えない障壁を作ってしまったためである。しかし、生徒が一人一人自分の能力に応じて学習することのできるLLはまだまだ利用価値があり、特にコンピュータを併用することによって、生徒の関心を引き出し学習効果を大いに高めるのである。過去2度に及ぶLL教室の設計と実施の経験に基づいて英語教育とコンピュータとLLの関わり方を考察する。
キーワード:LL教育、インターネット、英語と情報教育、マルチメディア

 インターネットを始めとし、 とくにこの1、 2年の間のコンピュータの普及には目を見張るものがある。 その浸透はビジネスはもとより、 家庭や教育現場にまで及ぶようになっている。 コンピュータの教育利用といえば、 1980年代半ばにパソコンを使って一時流行してやがて下火になった、 CAI(Computer As-sisted Instruction) という方法があり、 英語教育においても試されたことがある。 それが普及しなかった理由は、 教師のコンピュータ操作能力の不足に加えて、 教材作成のプログラミングの難しさや、 ドリル学習の単調さなどである。 わが国の英語教育の歴史においては、 このコンピュータ教育と同じように科学の先端技術を利用して挫折した経験がある。 1960年代から70年代にかけて英語の視聴覚教育が日本で押し進められ、 やがてほとんど省みられなくなってしまったのである。 確かに最近の社会的ネットワーク環境整備とパソコンの性能向上には驚くべきものがあるが、 こうしたテクノロジーは本当に英語の教育に役立つのだろうか。 これまで2回LL教室を設計して実践してきた経験に基づいて、 LLとコンピュータの利用の仕方やテクノロジーと英語教育の問題を考えてみたい。

1. 日本の視聴覚教育とランゲージ・ラボラトリーの歴史

 伊藤嘉一氏が示唆しているように、 日本では第二次大戦後に英語ブームが起こったが、 それは構造言語学と行動心理学に基づくオーラル・アプローチの導入に並行する視聴覚教育への関心の高まりに通じるものであった1)。 映画、 スライド、 レコードを使った視聴覚教育は新しい英語教育法として注目を集め、 『英語教育』 誌第1巻 (1952) から第20巻 (1972) までの特集記事の67.2%は視聴覚教育関係で占めるほどであった2)。 昭和30年代に入り本格的なランゲージ・ラボラトリー (LL教室) が中学高校に配置されるようになって、 視聴覚教育は一つの頂点に達するのであるが、 その後は徐々に関心が薄れ現在に至っている。 視聴覚教育の象徴ともいうべきLLが衰退したのは、 オーラル・アプローチが言語学、 心理学の両面から科学的妥当性を批判されたためである。 とくに同じ文型を丸暗記したり、 機械的な受け答えを重視するいわゆるパターン・プラクティスの効用が疑問視されて、 その方法論に基づくLL教育は同様に批判の対象となり、 視聴覚教育への人気は下降するようになったといえる。
 しかしLL教育の衰退はオーラル・アプローチへの批判だけが原因ではなく、 視聴覚機器というテクノロジーをどのように英語教育の実践に生かすかという問題とも絡んでいる。 LL教室が全国の学校に作られるようになった1960年代前半の日本においては、 一人一人が操作できるテープレコーダーとヘッドホンを備えたブースは、 今でいうハイテクの象徴として新時代への期待と科学の進歩への怖れの念で眺められたに違いない。 当時のLL教室は、 生徒のブースは前部と左右を高い間仕切りで区切られており、 生徒がヘッドホンをつけて教室後部のガラスで仕切られたコントロール室の教師の指示に従って、 黙々とパターンプラクティスを繰り返す有り様は、 見る人に語学ロボットを生産する実験室か工場を連想させたとしても不思議はなかった。
 1961年にLLの研究と連絡組織として語学ラボラトリー協会が発足し、 1973年には文部省が 「視聴覚教育研修カリキュラムの標準」 を公布し、 これに基づいて全国で研修が実施され、 LLの普及が計られた3)。 確かにこうした動きがLLの使用法を広め、 数多くのLL担当教師を育成したのであるが、 同時にLLは操作が複雑で、 使いこなすためには特別な教育と技術を身につけなければならない、 という意識を英語教師に植えつけ、 やがて敬遠される素地を作ったことも否定できない。 つまり、 LLというテクノロジーの神話化である。 このようなLLの神話化は、 ブース間の間仕切りが取り外され、 教師がガラス張りのコントロール室からでて、 生徒と対面しながら指示を出すオープン方式に変わった現在に至るまで形を変えて続いているといえる。 操作が煩雑なため特別なトレーニングを受けた専任の教員が使うもので、 教材はLL用に開発されたものかまたは教員が特別に作成したものを使わなければならないという神話である。
 英語教育理論の変化と熟達した技術を要するという神話化、 そして英語授業時間数減に伴うカリキュラムからの脱落などの理由によって、 LLは英語教育の中枢から周辺部に追いやられ、 今やLL教室をコンピュータルームに取って変えようとする動きも目立つのである。 また話せる英語への要望の高まりは、 AETとのティーム・ティーチングや1994年度のオーラル・コミュニケーションの授業の設置をもたらしたが、 機械的な受け答えという印象を与えすぎたLLはここでも出番はなかった。 しかしそれではLLは何の役にも立たない無用の長物と化したのかというとそうではなく、 使い方によってはまだまだ英語教育に貢献する可能性は高いのである。 これまで秋田大学と山梨大学という二つの大学教育機関でLL設備を設計し、 現在週に1度ずつLL授業 (60ブース) とコミュニカティブ・イングリッシュ (コンピュータ付40ブース) の授業を担当している経験に基づいて、 新しいLLの活用を含めたインターネット時代の英語教育について考察してみよう。

2. 秋田大学と山梨大学のLL教室

図1 秋田大学LL教室 60ブース Pプロジェクタ  秋田大学では1987年度予算により、 10年近く経過した旧機種を設備更新して新しいLL設備を導入した。 同時にこれを機に教室後部のコントロール室から生徒の背に指示を出す遠隔操作方式から、 ブースの仕切りやコントロール室をなくして、 前方にマスターコンソールを設置して、 教師と生徒とが対面する方式に切り替えた。 コントロール室の壁を撤去する際に教室全体の内装と設備を見直し、 次のような大幅な改造を行った (図1)。

1)床はカーペットを敷いたフリーアクセス、
2)天井は防音用ボード、 格子入り照明器具、
3)照明は教卓、 教室前部・中央部・後部に分割し明るさはダイヤル調整
4)天井のプロジェクターから120インチスクリーンへ映像とコンピュータを出力。
図2 秋田大学LL教室機器構成図  LL設備をオープン方式に改造すると同時に、 各ブースごとにパソコンを設置する計画があった。 当時はまだパソコンが高く最初の予算では実現できなかったが、 その後1994年に56台のマッキントッシュLC475が導入された。 しかしこの教室の特色はプロジェクターを通した多彩なプレゼンテーションにある(図2)。 プロジェクターへの入力は、 大きく分けて教卓上のパソコン (マッキントッシュIIcx) からのRGB信号と映像ラックからのビデオ信号の2系統に分けられる。 映像ラックには、 1)VHS、 2)ベータ、 3)8ミリビデオ、
4)レーザーディスク、 5)教材提示装置などがあり、 さらにVHSとベータのビデオには衛星放送のアンテナが接続されており、 録画とプロジェクターへの出力ができるようになっていた。
 こうした経験を土台に山梨大学で合計100台のブースを以下のように2教室に分けて設計し、 完成したのは1994年 (平成6年) 4月ことであった4)。

 (1) 60台ブースのLL教室
 【概要】
山梨大学LL教室 60ブース Pプロジェクタ  60台ブース用の教室は一般教育の多人数の英語受講生の現実に合わせており、 大クラスにおいてとくに生徒の発音とヒアリング能力を高めることをめざす仕様となっている。 二人用ブース机が3列並んだ配置は、 コミュニケーション英語をめざすにはやや縦に長すぎるが、 建物の構造上横の長さを確保することができなかった5)。 この教室を使う英語Lクラスは、 もともとネイティブ・スピーカーの講師の会話クラスを受講するための基礎的な音声教育をすることを目的としていた (図3)。
 【仕様と機器構成】
 A)LLシステム
 ソニー LLC-9000 60ブース用フルラボシステム
 LLシステムを使って教師側から送られるメディアは次の二種類である。
 i)映像と静止画
 a)教材提示装置からの立体物、 写真や図、 OHP等
 b)スライド及びネガフィルム (ポジに反転されたもの)
 c)ビデオ機器−VHS、 レーザーディスク (以上英語字幕表示可能)、 8ミリビデオ
 ii) 音声 (ステレオ)
 a)テープ教材 (2種類のうちから1種類選択可能)
 b)CD
 c)ビデオ機器からの音声の聞き取り、 テープ録音可能
 外部スピーカーは中央部に2台ある。
 B)プロジェクターシステム
 この教室は天井に吊した大型のマルチスキャン・プロジェクターを通して、 40人ブース用教室と同様に、 上のa),b),c)の映像系の出力を前方の120インチのスクリーンに投影できるだけでなく、 ラップトップ型のパソコンを持ち込めばマッキントッシュとMS-DOS (ウインドウズ) の画面出力を行えるようになっている。 またLLとは別系統のアンプとスピーカーシステムを備えているので、 LLを立ち上げずに映像とコンピュータのプレゼンテーションを行うことができるので、 他の授業にも使える仕様となっている。

  (2) 40ブースのLL教室 (マルチメディア教材作成室)
 【概要】
図4 山梨大学マルチメディア教材作成室 マック40台+40台ブース  この教室は60ブースの教室に一人一台のコンピュータシステムを追加しただけのものであるが、 教室内の様子はまったく趣が異なっている (図4)。  ブース机にパソコンを載せると机に埋設されたブース部 (テープデッキと操作部) はまったく目立たず、 コンピュータルームのような外観になっている。 また机の配置は図4の通り、 教室中央縦に向かい合わせて2列と、 窓側と通路側に1列ずつ、 計4列並んでいる。 生徒側にはモニターはなく映像、 画像、 コンピュータの出力はすべて60ブース教室と同じ型式のプロジェクターを前方スクリーンに投影するようになっている。 音はLL用のスピーカーとアンプを通したスピーカーの2系統となっている。
 【仕様と機器構成】
図5  LLシステムはブース用のモニターがないこととb)のスライド提示装置がないことを除けば同じ仕様なので省略する。
 LL設備にコンピュータを組み合わせたのは、 コンピュータによる文字の表示と入力機能を利用すれば、 ヒヤリングとスピーキングに加えてリーディングとライティングの能力も伸ばすことができるからである。 また生徒用の機種として採用したマッキントッシュLC520はCD-ROMドライブとステレオのスピーカーとマイクを内蔵しており、 CD-ROMの画像や音声、 動画などを扱うことができ、 LLとマルチメディア・パソコンを組み合わせて新しい語学教育を開拓しようとするシステムである。 コンピュータ・システムの概要は図5の通りである。
a.教官用コンピュータ (マッキントッシュ)
  Quadra 840AV 33MHz 24MB HD

 13インチモニター+20インチカラーモニター
 カラースキャナー 1台

b.サーバー用コンピュータ
  Quadra 800AV 33MHz 24MB HD 1
 GB 13インチモニター付
c.学生用コンピュータ
  LC520 12MB 160MB 40台
d.ネットワーク用プリンター
  NTX-J 2台
 次に94年度 (95年2月) に山梨大学が実施した学生による授業評価の結果を見ながら、 このLL設備の教育について考えてみたい。

3. 学生による授業評価とLL教育

図6 山梨大学生による授業評価 平成7年2月実施  アンケートは選択式で21項目、 記述式で6項目の質問があったが、 本論に関係のありそうな選択式の項目を取り出してその内容を紹介すると以下の通りとなる 6)。 またアンケートの項目番号はかっこで示した。
  1. 授業内容の量はどうだったか(III-1)
  2. 分かりやすい説明であったか(III-3)
  3. 質問への対応はどうだったか(III-4)
  4. 熱意の感じられる授業であったか(III-5)
  5. 全体として纏まりのある授業であったか(III-6)
  6. 授業内容に新たな興味を持ったか(III-7)
  7. 授業の休講回数はどうだったか(III-8)
  8. 授業内容への満足度はどうだったか(III-9)
  9. この授業への出席状況はどうだったか(IV-1)
  10. 授業に積極的に参加したか(IV-2)
  11. 授業時間以外に予習復習したか(IV-3)
  12. この授業の他の受講生の態度は良かったか(IV-4)
 質問に対する選択肢は1〜7まで用意されていて、 以下の質問1の例に示されるように1が最高に良く7が最低で4が普通という配列になっている。
  1. 非常に適切であった
  2. 適切であった
  3. どちらかといえば適切であった
  4. どちらともいえない
  5. どちらかといえば不適切であった
  6. 不適切であった
  7. 非常に不適切であった
 紙面の都合ですべての項目の選択肢を示せないが、 他の項目の選択肢1だけを紹介すると、 2. 「非常に分かりやすかった」、 3. 「非常に丁寧だった」、 4. 「非常に感じられた」、 5. 「非常に纏まっていた」、 6. 「非常に興味を持った」、 7. 「大変少なかった」、 8. 「100%満足だった」 (以下、 80%、 60%、 50%、 40%、 20%、 全く満足しなかった)、 9. 「ほとんど100%でた」、 10. 「非常に積極的だった」、 11. 「非常に熱心に勉強した」、 12. 「非常に良かった」 となる。
 1994年度に担当した英語L (LL教室を使用)、 英語C (LLとマックを備えたマルチメディア教材作成室を使用) のクラスの授業評価の結果の表とグラフは別に示した (図6)。 この表では他に外国語科目、 共通教養、 全学の結果も参考のため加えられている7)。 また選択肢は1が最高で7が最低で、 数値が低いほど良いという集計結果となって、 とくにグラフ化したときにわかりにくいので、 中間値の4からそれぞれの数値を減じている。 つまり数値の高さがよい結果を示すようにしてある。 外国語科目 (英語、 ドイツ語、 フランス語)、 共通教養、 全学の3分野の中では外国語科目が一部の項目を除いて高い数値を残している。 これに対して英語Cと英語Lは対照的な結果となっている。 英語Cは、 「熱意」、 「予習」 を除いていずれも高いか同等の値となっており、 とくに 「分量」、 「興味」、 「満足度」、 「態度」 などでは5分野の中でも群を抜いて高い数値を示している。 一方英語Lは英語Cに比べて甚だしく劣っているだけでなく、 外国語や大学全体においてもわずかな例外を除いて評価が低くなっている。 とくに 「熱意」、 「纏まり」、 「興味」 という授業の中核的な項目で、 かなり低い数値が示されている。 しかしそれではまったく失敗に終わった授業だったかというと、 「満足度」 では全体をやや上回っていて、 また外国語、 共通教養、 全学のいずれもがマイナスの数値となっている 「積極性」 では英語Cのみのプラスの数値についで中間の0を示しており、 必ずしもそうではなかったことが分かるのである。
 おそらく一人の教官で同じような授業を担当していながら、 これほど評価に差がでる例は大変希なのではないだろうか。 2クラスを担当したものとしては、 片方だけ手抜きをしたわけではないので、 このように評価に開きがでるとは予想だにしていなかった。 その根拠を探るために最初に英語Lの記述式回答を分析し、 続いて英語Cの回答をみてみたい。
(A)英語L 受講者数 60 回答数 57 (内記述式回答に答えない数 8) (複数回答)
【良い点】
 1)ビデオや英語の歌が聴かれたこと (18)
 2)LLや教室設備が良かった (12)
 3)各自が自分でテープをヒアリングし、 発音できたこと (10)
 4)その他3 [積極的に参加できたこと、 教官の熱意があったこと、 受講者数が適当]
【問題点、 改善点】
 1)教官の機器の操作が未熟、 もっと良い活用法がある (14)
 2)映画を最後まで見たかった (13)
 3)教材が中途半端に終わり、 授業が散漫だった (9)
 4)教室の後ろから白板の文字が良く見えず、 教官の声が聞き難い (5)
 5)その他 (4)
(B)英語C 受講者数 40 回答数 37 (内記述式回答に答えない数 1) (複数回答)
【良い点】
 1)パソコン (マッキントッシュ) を語学に使えて良かった (21)
 2)会話主体の役に立つ英語が良かった (9)
 3)LLや教室設備が良かった (8)
 4)楽しくできた (6)
 5)その他 無し
【問題点、 改善点】
 1)コンピュータ (マッキントッシュ) の操作に手間取った (7)
 2)もっと多くの会話をしたかった (4)
 3)その他 (6)
 こうして比較してみると英語Lも英語Cに劣らぬくらい良い点が挙げられていることが分かる。 全体の回答者数に対する1)良い点を挙げた回答者数の比率と、 2)改善点を挙げた回答者数の比率を比較すると次のようになる。
表1 良い点の回答者数の比率
回答者総数良い点の回答者数良い点の回答率
英語l574274%
英語c373286%
 これを見ると両クラスともあまり大差はなく、 英語Lもかなり良い点が指摘されている。 しかし改善点を比較すると大きな相違が見えてくる。
表2 改善すべき点を回答した人数の比率
回答者総数改善点の回答者数改善点の回答率
英語l573561%
英語c371541%
 英語Lでは61%の学生が改善点を挙げているのに対して、 英語Cでは41%と少なく、 またわざわざ 「特になし」 とか 「このまま続けるべきだ」 という回答もあり(11%)、 このような回答は英語Lではなかった。
 この年の英語Lの授業を振り返ってみると次のような問題点があったことが指摘できる。
1)LLの故障 (新機種を使ったためか、 最初は良く故障した)
2)担当者の操作の未熟さ
3)遅刻者や休んだ学生のために再度録音しなければならず、 他の学生のレッスンが中断した。
 これら主な3つの理由の内で、 100%授業の担当者の責任といえるのは2)だけだといえるだろう。 だが、 受講する学生にとっては、 それが機械の整備不良であろうと学生のせいであろうと、 悪い印象はすべて教官の責任と感じられたようである。 事実遅れてきたりテープを忘れた学生に対する批判は皆無であった。 しかしLL機器の整備が完了し、 操作になれた2年目は苦い経験を生かして、 授業をスムーズに進めることができるようになった。 たとえば白板の文字を大きくしたり、 できるだけマイクを通して話したり、 またテープは教室内に置いておくようにさせた。 1995年度の定期試験の際に別の紙に無記名で授業の感想と要望を書かせたところ、 授業が易しすぎると書いた1名を除いてすべて授業を楽しんでいるものばかりであった。
 一方、 マルチメディア教材作成室を使った英語CクラスにもLL設備は備えられていたが、 こちらはLLは録音用にはあまり使わずに教師から生徒へ話すとき (一斉と個別の両方)、 そして生徒同士のペアレッスンなどのコミュニケーションの手段として使ったために、 整備不良の欠陥はあまり目立たなかった (この教室のLLも整備が必要だった)。 そしてCクラスの隠れた主役はコンピュータであった。 教育学部2年生を対象としたLクラスに対して、 Cクラスは工学部1年生主体であったが、 生徒の大半はコンピュータの操作ができず、 最初の1、 2ヶ月は英語と並行してコンピュータの操作を指導しなければならなかった。 従ってこちらが当初予定していたほどには、 LLとコンピュータと英会話はうまく機能しなかったが、 それにも関わらず学生の意欲と満足度は高かった。 それは一つには学生の回答にあったとおり、 コンピュータを使えたからである。 最後にこれらの結果を踏まえながら、 LLやコンピュータといった現代テクノロジーを使った英語教育の意味と可能性について考察し結論としたい。

4. 結び、 英語教育とテクノロジー

 英語Lの授業ではLL用の教科書とテープを使いながら、 ディズニーのBeauty and BeastAlice in WonderlandそしてDr Seusという幼児向けのアニメーションや、 アメリカのアニメーションのThe SimpsonsやテレビドラマのMurphy Brounなどを随時見せて、 聞き取りなどの教材として使った。 時間の都合上ほとんどがその一部しか見せることができずに、 散漫な印象を与えたようだが、 しかし良い点の回答のトップに示されているように、 ビデオや歌を視聴させることは学生の興味を強くかき立てるのである。 ただ見せるだけならビデオ機器のある普通の教室でもできるが、 それをテープに録音して各自の操作でスピードや音量を変えながら、 聞き分けられるまで繰り返し再生して聞くことはLLでなければできない。 回答に示されているように、 LL設備を使いヒアリングや発音練習ができたことを評価する回答数は合わせて22もあった (複数回答)。 LLは機器を一人一人が使えるだけでなく、 各自が自分のペースと興味に従って積極的に勉強する姿勢を育てサポートできることをもっと評価されるべきである。 そのためにはこれまでのLLを使った英語教育の方法にとらわれない試みがもっと成されるべきだろう。 そこでコンピュータの重要性が浮かび上がる。
 マルチメディア室のコンピュータは、 93年度当初の概算要求のときには、 インターネットはおろか大学内のコンピュータネットワークと接続することも考えていなかったが、 ちょうど94年に学内ネットワークの設備更新が行われ、 1台1台にネットワーク用にイーサーボードをつけ接続できるように仕様を変更した。 そのためこの教室からE-mailを大学内から全世界に宛てて出せるようになっただけでなく、 インターネットを利用することができるようになった。 マルチメディア教材作成室のコンピュータシステムの接続図は、 この教室の配置図とは異なり図5の通りである。 しかし教室内ではマック用のTimbuktuと呼ばれる遠隔操作用のソフトを使って、 教師機から生徒にファイルを送ったり、 1台1台の画面を教師機でモニターしたり遠隔操作をしたり、 またその画面をプロジェクターに投影して、 クラス全体に見せたりすることができて、 この教室だけのネットワークが存在するかのように使えるのである。
 英語Cの授業では、 コンピュータは英語の会話や歌などの聞き取り用に、 ところどころ空所の入った教材 (テキスト・ファイル) をサーバーからダウンロードしたり、 長文の口語表現を行うための下書き作成をしたり、 キーボードを使った英語の対話練習などに利用して効果を上げている。 今後はインターネットを通じた外国とのメールの交換などに使いたいと思っている。 LLにコンピュータを組み合わせることによって学生の主体的行動がサポートされるのである。 コンピュータの利用にあたって大切なことは特別な教材プログラムを開発するよりも、 実際の授業の中で学生のやる気を出すための教師の想像力溢れた応用力ではないかと思われる。 これについての研究は別の機会に発表したい。

1)伊藤嘉一 「教授法・指導法はどう変わったか」 『英語教育』 第44巻第8号 (1995年9月増刊号)、 p.25
2)同上。
3)金田正也 「教育機器の変遷とパソコンの普及」 『英語教育』 第44巻第8号 (1995年9月増刊号)、 p.57
4)これは平成3年に行われた大学設置基準の大綱化に伴い、 情報教育用設備と語学演習用装置の設置が必要となったために、 新たに概算要求したことによる。 平成4年度にLL設備の最初の概算要求書を提出。 平成5年度の補正予算で設置が認められ、 6年度から稼働している。
5)コミュニケーション主体に机の配置を考えると、 4人、 6人が向かい合ってすわり一つのグループを構成し、 全体で20〜30名程度のクラス規模が望ましい。
6)この山梨大学生の授業評価については、 山梨大学自己評価等委員会によって編集発行された 『山梨大学は、 いま― 山梨大学活動報告2』 (1995年6月) の中で、 集計結果の一覧と分析結果のグラフなどが報告されているので参照されたい (pp.3-37) 。 ちなみに筆者は専門委員として授業評価の分析に関わった。
7) 『山梨大学は、 いま』 の数値を用いた。 p.37

*チェック済み(97/8/25ころ新藤,97/9/7成田)