教育実践学研究3. 23-31. 1996.

教育実習における対話的リフレクション研究

Effect of Reflective Dialogue on Student Teachers : A Case Study

守木 貴
MORIKI, Takashi
山梨大学教育学部付属小学校
Elementary School Attached to Faculty of Education,
Yamanashi University

概要:従来、教育実習中に実習生の授業を事後検討する際には、教官と実習生との間で、言葉を介して授業場面を再現することがほとんどであった。このため、授業者の発問・指示、視線、立ち位置やそれらに対する学問者の反応など、授業場面での詳細な状況を、検討の中でリアルに再現しきることができなかった。その結果、教官の意図した指導内容が、関連する事実を伴って実習生に正確に伝わらなかったり、実習生が根拠となる事実を特定できぬままあいまいな反省しかできなかったりする問題点があった。また、この中では、どうしても教官の言葉による問題場面の再現によって検討が進められやすく、結果的に、実習生は教官からの言葉を受け取るだけの受け身的な態度に終始してしまいがちであった。さらには、教官が問題場面の提示をする際、それが言葉によるものであるために、実習生がその事実を把握できるまでに時間がかかってしまう問題点もあった。
 以上の問題点を解決するため、平成8年度前期教育実習において、コンパクトサイズ8mmビデオカメラを利用した簡便なシステムを通して、対話的リフレクションによる授業検討を行った。授業中の事実をリアルに再現するビデオ映像の導入により、実習生自らが即座に問題点となる事実に気付くことができるようになるとともに、教官もはっきりとした根拠を映像で示しながら指導することができるようになり、実習中の授業研究を従来より簡便にしかも効果的に行なうことができる効果が認められた。
キーワード:教育実習指導 リフレクション 気づき 授業研究

はじめに

 教育実習中の授業の事後検討において, 教官が実習生へ指導を行う際, 教官側からの言葉だけでは、 意図や指導内容が伝えきれないことがある。
 例えば, 教官が 「今日の授業では指示が全員に向けられていなかった。」 という指摘をしたとする。 この指摘に対して, ある実習生は, 「自分は確かに全員に対して指示は出したはずだが。」 と疑問に思ったり, また別のある実習生は, 「よし今度は全員に向けて声を出して指示しよう。」 と思ったりすることが考えられる。 つまり, 先の教官の言葉からだと, 実習生は, 音声でその指示が全員に発せられたかどうかということだけに検討の視点を持ってしまいがちであることが予想できる。
 しかし, この時教官が指摘したいのは, 単に指示の言葉が音声で発せられたかどうかということのみでなく, 「全員に指示を出す」 という教師の行為に関わるさらにいくつかの重要点を内包させて指摘しようとしている場合が多いのである。 それらは, 例えば次のようなことがらである。
 先の教官の指摘の言葉だけから, 実習生がこれらの点について自然に気づくのを期待するのは難しい。 これらのことがらを教官がひとつひとつ説明していくとしても, そのためには, 実習生に, 実際の授業での関連事実を一つ一つふり返らせる作業を伴うため時間がかかり, また, それは主に記憶にたよる作業のため, 実践過程を自覚する経験の少ない実習生にとってわかりにくい場合もある。 指導教師の蓄積する実践的知識と実習生のそれの量と質の違いを考慮すればこれは予測できる。
 このように, 教育実習において, 実習生を指導する側が、 伝えたいと思って指導したつもりでも、 それがうまく実習生に伝わらないことがある。 また教官と実習生とがわかりあったとした内容が、 実は微妙に異なっていることがある。 このような場合には、 実習生の行動をビデオ映像によってでリアルに再現し, それをもとにしてリフレクションしながら指導することが有効であると考えられる。
 澤本(1)、 吉崎ら(2)、 佐藤(3)は自己リフレクションについて報告している。 澤本は、 教師が自分の授業をビデオ撮影し、 自分の授業をビデオ映像で見て、 自分自身で反省する研究を行っている。 佐藤ら(4)は、 授業者1名、 学習者9名で授業者と学習者の両方をビデオ撮影し、 それぞれの内面を記述してもらい授業分析を行った。 自分以外の人の各内面を知ることにより、 ひとつのことを説明しても、 人により受け取り方、 理解の仕方が異なることを自らわかり、 教えることの難しさを指摘する学習者もいたことを事例としてまとめている。 南部(5)は教育実習生の内省を支援するための授業観察システムの開発と試行をした。 その結果、 ビデオを鏡的に利用した授業記録とその再生視聴による逐語記録の作成、 簡易授業分析カテゴリーシステムを用いた分析、 並びに授業意図及び学習者行動の判断作業を用いて自分の授業を検討したことが、 教育実習中に気付かなかった自分の授業の特徴と問題点の発見につながり、 教育実習生にとって役に立つシステムであることがアンケート調査により判明したことを述べている。
 今回, 教育実習の授業実践において実習生をビデオ撮影し、 実習生自身にその映像記録を部分的に繰り返し見せながら検討, 指導を進める対話的リフレクションを行った。 対話的リフレクションは, 少人数による問題点や課題をしぼり込んだ密度の高い話し合いで検討することを意図するときに実施する方法である。 本研究では、 この教育実習の対話的リフレクションについて検討した。

I 教育実習と対話的リフレクション

 1 教育実習における従来の授業反省のスタイルとその問題点
 筆者は, これまでの実習期間中の授業実践研究において, 実習生達と行う放課後での事後検討会を次のような手順で行ってきた。
1) 授業観察者 (同教室の実習生) 3, 4名が, 観察者の立場から質問事項, 所感, 意見を述べる。
2) 授業者が, 授業観察者の質問や意見をふまえながら, 所感, 意見をのべ, 教官へ疑問点を質問し, 指導をうながす。
3) 教官が観察者, 授業者の指摘をもとにして, 指導者としての立場からコメントし, 達成できた点, 課題点を指摘する。
 この検討のあと, 授業者は以後の授業実践に反省点を活かし, 観察実習生は自分の次回の実践の参考にする。 この方法では, 授業の実際や成果に関して, 観察者や授業者のそれぞれの立場からの気づきやとらえをもとにして, 実習生達が主体的に反省検討を行うことを意図している。
 ところが, この方法では, 以下のような問題点がある。
 まず, 授業者, 観察者, 指導者の記憶やわずかなメモ等をたよりに, それぞれの立場から授業を振り返るため, 授業者の言葉, 児童の発言・反応などの授業中の事実についてリアルに再現することができない。 このため, 授業の成果や課題について, 事実に基づいて正確に考察したり指摘したりすることが困難になる。
 教官は, 問題としたい場面を言葉によって再現し, 指導したいことを実習生に伝えようとする。 実習生は, その言葉によって反省内容をとらえようとするが, 教官の言葉を介してのとらえとなるため, その意味内容が正確に伝わらないことがある。 また, その結果, あいまいな反省しかできず, 教官からの言葉を受け取るだけの受け身的な態度に終始し, 主体的な気づきには結びつかないことが多い。
 さらには, そのようなやりとりのために時間がかかる。 連日2, 3の授業反省と日々の学級経営の反省などを行う実習期間中において, ひとつの授業検討のために利用できる時間は放課後の10分ほどである。 前述したやりとりを成立させるための時間は, 期間中には保障できない。
 これらの問題点をふまえると, 実習生に授業中の実践過程のリアルな再現の助けを借りて授業を検討させ, そこから主体的な 「気づき」 を導くリフレクションの機会を得させる方法の必要性が考えられる。 また, これは専門的な操作を要する特殊な機器や, 長時間の検討時間を必要とせず, 実習期間中のどこの教室でも, どの教官でも実施可能な方法であることが望まれる。
 以上のような問題点を解決するために, ビデオ映像を用いて授業の検討をするという発想や一部の実践はかねてからあった。 しかしながら, 次のような問題があった。
1) 授業全体を録画して再生する時間が毎日の中にない。
2) 使用可能なビデオカメラが, ハンディタイプの8ミリビデオカメラが2台, VHS方式ビデオカメラが1台, VHS-C方式ビデオカメラが2台, 計5台しかなく, 全18クラスが同時に使用できる体制ではない。
3) VHS方式のビデオカメラは設置スペースを必要とする大型の三脚スタンドが必要であることから, VHS-C方式は, 連続録画時間が短いため, テープの入れ替え作業が必要であることから使用しにくい。
4) ビデオテープのコストが高く, ビデオテープへの支出の一部を児童家庭からの徴収金 (学年費) でまかなっており, これ以上テープの需要を増やすわけにはいかない。
こうした事情から, ビデオ映像による授業検討が敬遠されてきた。
 ビデオ映像の使用に関しても, 以上の点で, 現状での課題があるといえ, それぞれについて何らかの工夫や改善によって解決されることが望まれる。
 2 対話的リフレクションの意義
 これまで指摘した問題を解決するためにビデオ映像を利用した 「対話的リフレクション」 の導入を考えた。
 澤本(6)は, 授業者が一人で, 反省を行う主体としてのエゴと, その客体としてのセルフの不一致の自覚から, 両者の統合をめざした解決の方法を生み出していく研究を, セルフーリフレクションとし, 2人あるいはそれ以上の人数によって, 協同でリフレクションを行っていく方法として, 対話的リフレクション, および集団的リフレクションを挙げている。 この2つについては, 「(1) 聞き手としての他者が, 授業者の視点で授業をシミュレーション試行で検討する段階」 から, 「(2) (1) を前提に, 独立した研究者の視点からの検討を行う段階」 を経てなされるとしている。
 ここでは教官がまず聞き手に徹し, 授業者, すなわち実習生の見解を聞きながら実習生の視点でビデオ映像に示されたデータを読み, 共にその見解の異同について検討する。 その後, 一人の研究者として立ち返った教官は, 自分の視点から授業をもう一度検討し, 授業者との分析や見解の異同, それにもとづく考察をし, 授業者へ返す。 その過程の成果を, 授業者である実習生は, 次回の実習授業へと生かしていく。
 授業者としての実習生が, ビデオ映像をもとにして, 教官と対話的にリフレクションを行い, 検討客体としての自分 (セルフ) と, 検討主体としての自分 (エゴ) の統合をめざしていく中で, 従来, 筆者のとっていた方法よりも効果的に授業検討ができるのではないかと考えた。

II 対話的リフレクションの検討方法

図1 8mmビデオカメラ設置図
 授業者を中心にし, なるべく児童も入るようにして、 授業を8ミリビデオカメラで撮影する。 使用するビデオカメラは1台で, 教室後方の児童用ロッカーの上において撮影する (図1参照)。 体育などの授業の屋外の場合は, 固定ではなく撮影者を配し, 教室内と同様に, 授業者を中心にしてなるべく児童の行動も入るようにして撮影する。
 教官は, 基本的な発問や指示の言葉の有効性や, 授業が意図したとおりに運ばなかった理由等について, その因果関係や効力の実際について, 根拠となる事実があった場面のカウンターの時間をチェックし, 放課後の検討会用の5分間分ほどの提示部分をあらかじめ確認しておく。
図2 授業検討時の配置図
 放課後の検討会では, 可搬型ラックに収納されたテレビモニタ (32インチ) を教室に運び, 8ミリビデオカメラを再生機として接続する。 なごやかなコミュニケーションをはかるために, モニタと机をはさんで, 授業者と教官がL字型に座る (図2参照)。 後方には同じクラスの実習生が座り, 必要に応じて対話に加わっても良いこととする。 再生の操作は教官が行う。 提示素材中から必要な個所を繰り返し再生して見せ, 授業者と教官が対話しながらリフレクションし授業検討を進める。

III 対話的リフレクションの事例と考察

 1 対話的リフレクションの事例
 以下に実際に行った事例2つの概要について記す。
事例1 <A実習生>の場合
教科:国語
単元名:カブトガニを守る
場所:4年2組教室
授業の概要:段落毎の要点に着目させながら, 文章全体の構成についてとらえさせる説明文の単元である。 本時は, 単元第1時間目。 教材文について授業で扱うのは, はじめてとなる。 教材文を子どもたちに一読させ, 文の内容のあらましをつかませることをねらいとする時間である。
授業検討を行った場面の発話プロトコル記録:授業開始後5分ほどの内容である。
(STは授業者の言葉, Cは子どもの言葉, ( ) は, 補足説明。)

(日直の号令の後, 教卓の前で)
ST:ええっと, 先生達はあ, 教育実習の間に (左手の4本の指をあげながら) 4回授業をします。 そして, きょうは初めてなので, とても緊張しています。 (*1)
(間合い)
ST:じゃあねえ, 今日はねえ, 新しい単元にはいるんだけどもう, 最初お, 教科書をお, 開かないでえ, 閉じていてください。 (*2)
(間合い)
ST: (黒板を指さして,) 題名を書くから, 題名だけを見てね。
(子どもA, 小さい声で)
C: 「カブトガニを守る。」 だよ。
(授業者, 黒板の右端に文字を一つずつ書く。 「カ, ブ,」 と書く。)
(子どもAが,)
C:ほらな。
(何人かの子どもたち, 書かれた文字をたどりながら, 読んでいく。)
C:・・・ト, ガ, ニ, を守る。
(以下省略)

場面抽出の意図:
A実習生は, 前日の事前指導の段階からかなり緊張している様子がうかがえた。 あがってしまって, 言葉がうまくでないのではないかという不安を持っていた。 そこで, 筆者は, 授業開始後, 思っているままを素直に子どもたちにまず言ってみたらと事前に助言していた。 その結果, 実際の授業では, (*1) の言葉を発した。 (*1) をはじめ, 全体的に, 言葉は落ちついてゆったりとしていた。 静かな語り口, 素直な語り口が, そのまま子どもたちにも浸透して, 落ちついた中で授業が進行しつつあったと筆者は見ている。 この語り口を検討会で認めたいと考えた。
  (*2) においては, 筆者が指摘したい言葉遣いの問題点がある。 「だけどお, ですがあ」 などといった, 言葉じりの母音をのばして言う言い方である。 検討会ではこの話し方の問題点に気づかせ, 標準的なアクセントやイントネーションによる話し方を求めたいと考えた。

授業検討会でのリフレクション:
 授業後の反省会において, まず, 何も言わずに (*2) の部分を3回繰り返して再生して見せ, 問題点はないかと尋ねたところ, 2回目まではその問題点を自分で気づけなかった。 3回目に筆者が, 「最近の若者言葉に見られる問題点が発見できるんだけど」 というヒントを出したところ, その点に気づいた。 筆者のヒントを必要とはしたものの, この問題点については, ビデオの再生なしではなかなか気づけなかったと考えられる。 ビデオの再生がなかったら, 教官あるいは観察者の口頭による再現にたよらなくてはならず, 実習生への説得力が弱かったと考えられる。
 また, 授業者がうまくできた点を確かに認めることが肝要と考え, Aの静かな語り口を認めた。 Aは, 認められたことを, 画面上の音声や画像で確認することができた。 ビデオを用いない指導であったら, 語り口の問題はうまく指摘できなかったと考えられる。 ビデオに記録されている音声とその時の状況が画面上に再現されているからこそ, 筆者が 「素直で静かな語り口」 と感じた口調について, 他の実習生にも, 納得のいく形で指摘しながら話すことができたと思われる。

Aの反省ノートから (抜粋) :
 ビデオを撮ってもらって恥ずかしかったがふり返るのにとてもよかった。 授業することに必死で何をしゃべったのか忘れてしまい, ビデオを見て自分の言動が改めて確認できてよかった。 ビデオを見て思ったが言い方にはかなり配慮が必要だと思った。 自分の良くないくせを出さないようにと言われた。 今度から気をつけたい。 このほか指示・発問の大原則を指導され, とてもためになった。 自分では気がつかないことでも言われてみるとなるほどと思い, けっこう反省点は多いと思った。

事例2 <B実習生>の場合
教科:体育
単元名:幅跳び
場所:学校の校庭砂場前
授業の概要:全3時間計画の第1時間目である。 この単元では, 幅跳びについて自分の目標をたてさせ, その実現に向かって工夫をさせながらとりくませることを目標としている。 本時は, まず幅跳びをやってみさせ, 自分の課題を持たせることがねらいである。
授業検討を行った場面の発話プロトコル記録:
発話プロトコル記録:授業開始後, 準備体操が終わり, 砂場前に集合してから5分間ほどの内容である。
(STは授業者の言葉, Cは子どもの言葉, ( ) は, 補足説明。)

図3 はじめの整列時の体型
(砂場前に, 班ごとに整列させ, 号令をかけさせる。) (図3)
(笑顔で)
ST:はい, 今日午前中最後の授業です。 みんな疲れてませんか。 (*3)
C:腹減ったあ。
ST:そうだね。 みんながんばりましょう。
ST:はい, きょうは幅跳びをします。 いいですか。 はばとび, 知ってるよねみんな。 3年生の時にやったよね。
ST:じゃあ, さっそくやってみましょう。
ST:そのまえに, 砂場がここからここまでしかないから, 3つのグループにわけます。
ST:2班さんは1班さんの後ろについてください。 ・・・・・・。
図4 並び替えたあとの体型
(同様に4班を2班の後ろに, 6班を5班の後ろに移動させる。) (図4)
ST:はい, すわってくださあい。
ST:はい, じゃあまず, 立ち幅跳びをします。
ST:立ち幅跳び。
ST:いいですか。
ST:立ち幅跳びは, たったまんまから, いい, 見ててくださあい。
(といいながら, やってみせる。)
ST:より遠くに跳べるように, 思いっきり跳びます。 いいですか。 そのときに, 両足で着地してください。 両足で思いっきりね。 (踏みきり版を指さしながら) ここからね。 いいですか。
(以下省略)

場面抽出の意図:
 B実習生は, この体育の幅跳びで初めての授業実践を体験した。 この場面の場合, まず認められるべき点として, 子どもたちへの 「親しみのある, 明るい語りかけ」 があげられると考えた。 はじめての授業でありながら緊張してこわばった感じはなく, 笑顔で子どもたちに接していた。 (*1) の 「みんな疲れていませんか」 という語りかけは, あらかじめ用意された計画的なことばではなかったと思われるが, それによって, 「腹減ったあ。」 など何人かの子どもがくったくなく受け答えしている様子から, コミュニケーションのとりやすい, 生き生きとした授業内容を保障する雰囲気が, 既に授業冒頭のこの場面において, 子どもたちにも伝えられていたように感じられた。
 問題点として, 指示の際の体型づくりがあげられる。 Bは, 自分が手本を示す際, 図3の6列の体型から図4の3列の体型に並びなおさせた。 しかし, 全ての子どもにはBの手本がよく見えてはいなかった。 同時にBの説明の内容も, 特に列の後ろの方の子には聞こえていなかった。 図4のように縦長に整列していたために, 全員への指示が徹底していなかったのである。

授業検討会でのリフレクション:
 子どもたちへの 「親しみのある, 明るい語りかけ」 については, Aの場合と同じく, 教官の承認によって, 自身にも確認させることができた。
 体型の点については, 再生して, 問題点はないかと尋ねた。 Bは, 映像を見ながら即座に図4の体型の問題を, 手本が見えにくいこと, 後方に説明の声が届いていないことなどをその根拠としてあげながら, 指摘することができた。 同時に, そのことに授業中は気づかなかったことについても触れ, 自分に対し, 「こんな単純なことが授業中にわからないなんて」 という言葉を発した。
 さらにビデオを何回か再生して見ると, 説明しながら手本を示しているときは, Bの視線は前方の砂場の方を向き, ふりかえって子どもたちの方を見るときも, 前から2, 3列ぐらいまでの子どもたちにだけしか視線が投げかけられていないのが確認できた。 この点についても, B自らが, 「全員を見てないなあ。 これじゃあ指示が伝わらないわ。」 と反省の弁を発した。
 Bは, この整列のしかたの代案も容易に考えることができた。 画面を一時停止状態にして, どんな並び方だったら指示が徹底したか, 後ろの子から見た場合, どんな位置で説明したり見本を見せたりしたらよいかをその場で考えることができた。
 Bは, 放課後の授業反省会において, 教官である筆者からの何のコメントも受けていない状態で, この場面のビデオ再生から, すぐに前述した問題点を発見した。 カメラのレンズが授業者の視点とは異なった位置 (この場合は後ろの子どもたちの視点に近い場所) におかれたため, Bは実際の授業中には気付けなかった位置の問題について, 反省会の際に容易に気づくことができたと考えられる。
Bの反省ノートから (抜粋)
 まず教室の中と外とでは違うと感じた。 全員に目がとまらない。 話を始めようとしてもなかなか始められない。 子どもたちは思ったよりも活動的である。 早くやりたくて仕方がない。 それを説明のたびにいちいち止めてしまうようでは子供のやる気をそこねてしまう。 子どもたち一人一人に目を向けていこうと思っていても実際は目の前にあるものに精いっぱいで一人一人見ていられなかった。 砂場での彼らしか見ていないような気がする。 最初は時間ばかりが気になってしまい, 急いでしまったため後に時間が残ってしまってずっと子どもたちに幅跳びをさせ続ける状態になってしまった。 もっと落ちついて状況判断する力があればと思った。 やるべきことはしなきゃという思いがあり, 時間ばかりが気になってしまっていた。 自分が指導している場は教室ではなくグラウンドである。 話しをするときも聞くものの立場を考えて, 形態を考えたりしなければだめだったと思う。

 2 2つの事例からの考察
 実習生Aの例からは, 教官が多くを語らずとも, 実習生が自然に気づく素材を, 再現性の高い形で正確に提供できるという点に, 映像を用いた対話的リフレクションの有効性が認められる。 この事例のように, 授業中の教師の話し方, 言葉の使い方について検討を加える際, ビデオによる授業反省は非常に有効であると考えられる。
 実習生Bの事例では, 授業者は短時間の内にしかも納得のいく形で, 自分が授業中には気付なかった立ち位置の問題について反省をすることができた。 これは, 図4の体型よりは図3の体型の方が, 教師が演示しながら説明する場合には子どもにとってわかりやすいということの確かな根拠がビデオ映像で視覚的に示されたためである。 教官や, 観察者の指摘にたよらず, 授業者自身が問題点に気づくことができる状況を作り出す有効性が認められた。
 2つの事例から以下の2点が効果としてまとめられる。
1) 検討素材とする場面は, 5分間ほどにとどめるため, 放課後の短い検討時間でも十分に扱うことができる。 また, ビデオ映像をもってすれば, 5分間ほどでも詳細な検討のために十分な材料が含まれ得ることは2つの事例からも明らかである。
2) ビデオ映像がリアルに授業中の事実を再現するので, 授業者の指示・発問や児童の反応などに関する授業者の反省や教官のコメントについて, 根拠となる点をはっきりさせながら行うことができる。 また, 実践過程のリアルな再現が, 授業者の気づきを導き, 授業者の主体的, 発見的な授業検討を可能にする。
 4 反省と課題
 今回は, 8mmビデオ映像を使った授業検討の実際の方法として, 主に授業者と教官との対話的リフレクションによる例について検討し, 3の項で示したような有効性を確認できた。 その点で非常によかったと思っている。
 2つの事例において, 筆者は, 澤本が指摘する対話的リフレクションの方法に従って, 教官が聞き役に徹することを当初は心がけ, ビデオ映像を用いない時よりはかなり効果的に授業者の数々の有効な気づきを導くことができた。 しかし, ある程度それらが出ると, 一時授業者の発言は少なくなった。 そのあと, 教官としての指導意図に基づいたヒントや導きの言葉を与えた。 それによって授業者はまた多くを語った。 しかし, そのような場合すでに筆者は第三者的な意図を持った存在として授業者に働きかけ, 授業者はそれに対して反応しているわけである。 対話的リフレクションの第1段階として, あくまでも授業者と同一の視点で授業を見つめ, 聞き役に徹して辛抱強く実習生の自然な気づきを待つ姿勢を保持しきることは, なかなか難しいと感じた。 結果を急いで, 授業者の弁を聞ききらないうちに 「指導」 に走ってしまいがちではなかったかと反省している。 聞き役としての教官の在り方については, 今後さらに自己の実践を通して検討していきたい。
 機材面での課題も残る。 Iの1の項でも示したとおり, これまで教育実習における授業検討にビデオ映像が使われなかった要因の一つに, 検討会での再生時間の確保という問題があった。 今回の研究では, その点については約5分間の素材提示でも十分に意義のあることが見いだされ, ひとつの解決がなされたと筆者はみている。 しかしながら, 台数の上ではいまだに問題が残る。 また, VHS方式の三脚スタンドのスペース確保, VHS-C方式のテープの入れ替えの煩雑さから両者の使用は今後も敬遠されるであろう。 消耗するビデオテープの予算確保の問題も解決はみていない。
 各メーカーから発売されている機器は, 従来に比べ操作性が向上し, だれにでも簡便に使えるようになってきている。 機器さえ各教室にそろえば, 先に述べたようなビデオ映像による効果的な対話的リフレクションを, 実習期間中に全校一斉に展開することができる。 今後の公的な予算措置のもと, 条件整備が進むことを望みたい。
 5 次回への展望 
 次回は, 今回の研究を継続させてさらに対話的リフレクションの在り方を検討する一方, 同じ教室に配された実習生グループ (4名〜6名) が, ビデオ映像を用いた話し合いを通して, 主体的, 自発的に課題発見から解決にいたるリフレクションを行う形態, すなわち実習生による集団的リフレクションの成立のために, 教官はいかなる支援をしていくべきかについて, 実践を通して検討していきたいと考えている。

おわりに

 
 本稿に関し, 筆者に執筆を勧め, 示唆に富む資料を与えてくださった澤本和子先生, 執筆の際, 貴重なアドバイスと親身なご指導をいただいた佐藤博先生, および有効な実習データを提供してくださった筆者担当クラス配属の平成8年度前期実習生諸君に心より感謝申し上げます。
(1)澤本和子  「教師の成長・発達と授業研究」 『日本教育工学会研究報告集』 JET 94-3 1994年 pp.77-84 
(2)吉崎 静夫, 渡辺和志  「授業における子どもの認知課程」 『日本教育工学会雑誌』 第16号 1992年 pp.23-39
(3)佐藤学  「教師の反省と見識=教職専門性の基礎」 『日本教師教育学会年報』 第3号 1993年 pp.20-35
(4) 佐藤博, 澤本和子: 『教師教育のためのself-refrective methodの開発』, 日本教師教育学会年報, 第5号(1996) pp.129-139.
(5)南部昌敏  「教育実習生の内省を支援するための授業観察システムの開発と試行」 『日本教育工学会雑誌』 第18号 pp.175-188
(6)澤本和子: 「教師のための実践的力量形成研究ー授業リフレクション研究のススメー」 『AV SCIENCE』 東芝教育技法研究会 NO.225 1995年 pp.14-15

*チェック済み(97/8/10ころ新藤,97/8/18成田)