教育実践学研究3. 13-21. 1996.

教師の実践的力量形成を支援する
授業リフレクション研究

その2 集団的リフレクションによる単元学習事例研究

A Study of a Self-Reflective Methods for Teachers, Part 2 :
A Case Study of a Second-Grade Japanese Class at Yoshida-Nishi Primary School

浅川栄司
(長坂町立秋田小学校)
ASAKAWA, Eiji
小林 進
(富士吉田市立吉田小学校)
KOBAYASHI, Susumu
志村香代子
(竜王町立竜王西小学校)
SHIMURA, Kayoko
澤本和子
SAWAMOTO, Kazuko
(教育実践研究指導センター)

佐藤 博
SATO, Hiroshi
(技術職業科教室)

山田七重
YAMADA, Nanae
(大学院教育学研究科)

若杉純子
WAKASUGI, Junko
(大学院教育学研究科)

概要:本論考は、教師の実践的力量形成を支援する授業研究演習システムを用いた、集団授業リフレクション研究の事例研究である。小学校2年生の国語科単元学習の飛び込み授業を事例対象に、授業リフレクション研究の意義と課題を検討する。リフレクションデータとしてはビデオカメラ3台で撮影した記録を、授業リフレクション研究用に開発した授業研究演習システムを用いて、ふり返りを実施した。その結果、実践過程における教師の学習者認知、状況認知と状況判断、意志決定と対処行動、その結果としての学習者の反応をたどることができた。その結果から、実践過程における思考の流れを考察し、実践場面における意志決定と対処行動を再評価し、実施者の力量形成課題を一部明らかにすることができた。
キーワード:実践的力量形成 授業研究 自己リフレクション 集団的リフレクション

○はじめに

 現職教員の実践的力量形成研究プロジェクト (代表:澤本和子) は、 「教師の実践的力量形成を支援する授業リフレクション研究」 をテーマに、 授業研究演習システム開発研究プロジェクト (代表:佐藤博) と協同で、 授業研究演習システムを開発した。 その過程でこのシステムを利用して、 現職教員を中心に実践事例研究を進めた。 本研究は、 現職教員による授業リフレクション研究事例を対象とする。 以下では、 実践過程における授業者の内面過程をリフレクティブに記述しながら、 学習者の反応をどう評価し、 意志決定し、 対処行動を実施したか、 その評価はどうかを明らかにする。 そのとき、 観察者である現職教員や大学院生が観察した学習者の反応も記述し、 集団的リフレクションで検討し、 整理・考察する。

1 授業リフレクション研究における集団的研究方法

 1) 授業リフレクション研究の三形態
 まず、 授業リフレクション研究における集団的研究方法について説明する。 澤本和子 (1996) 1) らは授業者自身による自分の授業をふり返る内省的な授業研究方法を開発し、 「授業リフレクション研究」 と命名した。 授業リフレクション研究には、 次の形態がある。
ア、 セルフリフレクション
イ、 対話的リフレクション
ウ、 集団的リフレクション
 これについては、 澤本和子 (1996) で詳述した1) が、 概要は以下のとおりである。
授業リフレクション研究では、 自分の授業を第三者にもわかるように明確に記述し、 自分の実践の意義や問題点を明らかにする。 これを内省的に自己内対話で進めるのがセルフリフレクションである。 セルフリフレクションは、 授業リフレクション研究の中核で、 実践過程に行う 「事中内省 reflection in action」 や、 実施後に行う 「事後内省 reflection after action 」 と併せて実施する。
 他者との対話や討議をとおしてセルフリフレクションの妥当性を高め、 研究の深化・充実をはかるのが、 観察者との対話的リフレクションや集団的リフレクションである。 イは少人数で、 問題点や課題をしぼり込んだ密度の高い話し合いによる検討を意図するときに実施する。 ウは、 3人以上の多様な力量の研究者の組合せで、 自由にかつ協同的に実施する方法である。
 2) 対話的・集団的リフレクションの方法
 授業リフレクション研究でイ・ウを実施するとき、 第三者である観察者が授業者や学習者の内面過程を理解しやすいように、 授業者=研究者は授業データを整えて授業を記述する。 その上で、 セルフリフレクションの経過・結果とその理由を説明する。 観察者は授業者の視点を尊重し共感的に理解するが、 わからないところはわかるまで質問を続ける。 セルフリフレクションの経過・結果の考察を説明する過程や説明後に、 授業者は自分の授業記述の不備や、 授業観、 授業での意図、 意志決定方法、 自分が選ぶ授業方略の特徴、 など、 暗黙知やルーティン化した内面過程と教授行動を意識する機会となることが多い。 これは、 自分の授業観や授業のデザインで使うことばを、 より実践場面に即したことばでとらえ直す作業でもある。
 最初のセルフリフレクションで気づくことが、 気づきの第一段階とすれば、 これが、 気づき self-awareness を形成する第二段階である。 同時に観察者は、 授業者の意志決定や対処行動の過程が、 教師の内面情報にどのように規定されているかについて文脈的理解に努める。
 こうして共感的理解がある程度成立したところで、 批判的検討に移る。 観察者は、 授業の前提や学習者の実態について授業者の見解を受容的に理解した上で、 自分の視点から、 批判的に授業を検討する。 そして授業者に説明を求め、 評価し、 建設的に見解を述べる。 原則的にはこのとき、 授業者が話し合いの中心にあり、 提案内容が検討の対象となる。  イ・ウを終了したら、 授業者は再度セルフリフレクションを実施する。 これは、 授業者=研究者として自分の授業を整理し、 次の実践への指針と展望を得るためである。 専門家としての自律性 autonomy を確立するためにも、 この作業は必須である。 本研究では、 データ採取から計画的に観察者が協力して集団的リフレクションを進めた。 以下ではその方法を事例に即して提示し、 集団的リフレクションの意義と課題について考察する。

2 事例研究の概要

 1) 事例とデータ採取の概要
 事例は小林進教諭 (富士吉田市立吉田西小学校) が2年生に実施した授業である。 これを山梨大学大学院教育学研究科の教育方法学特論演習ゼミ (澤本担当) 生と内地留学生の現職教員が、 澤本和子と佐藤博の指導の下にデータを採取した。 これは澤本和子他 (1995) 2) のとおりである。 ビデオデータは授業研究演習システムを用いて処理し、 発話プロトコル、 映像プロトコルを作成した。 授業直後に到達度チェックテストとビデオ再生法を用いた調査を実施した。 概要は以下のとおりである。
1.対象授業
 単元名 「カンジーはかせのお手紙」
 富士吉田市立吉田西小学校 第2学年1組  指導者 小林進教諭
2.実施期日 1995年11月14日第5校時
3.授業デザイン
 小林進 (吉田西小学校)
 志村香代子 (三村小学校)
4.データ採取および調査
 浅川栄司 (秋田小学校)
 志村香代子 (三村小学校)
 山田七重・若杉純子 (大学院教育学研究科)
 指導:澤本和子・佐藤博 (教官)
5.データ作成 (ビデオ編集・VDR録画・発話プロトコル・映像プロトコル・ビデオデータ編集)  全員
 2) 授業分析の視点
 分析の視点を問題場面に限定し、 次のように設定した。 授業者=教師は、 学習者の何を見て、 どのような方法で、 学習を評価 (判断) するのかを、 事例に即して明らかにする。 なぜなら、 授業者にとって、 実践過程で学習者である 「子どもを見る目」 を身につけることは、 切実な課題であり、 実践的力量の根幹をなすものと考えるからである。 「子どもを見る目」 が指す実践的力量の概念は、 まだ明らかではない。 が、 とりあえず、 次の条件は設定可能であろう。 実践過程で指導者が学習者の反応や行動を手がかりにして、 その理解の程度・方向や意欲の状態を読みとるとき、 その読みとりの妥当性・的確性が高い場合、力量が高い可能性が認められる。 では、 その妥当性・的確性をどのように設定することが可能か。 また 「妥当性が高い」 という指標は設定可能か。
 こうした問題に対して、 本研究は 「指標」 の一般化を目指すものではない。 むしろ個々の教師が、 指標を明確化し設定する過程が、 教師の発達過程と関わるという仮説をとる。 教師は指標の形成過程で自己の内面過程を意識し、 自分の教育的信念 teacher's belief や、 共に授業を創る学習者の条件に即して、 リフレクティブに研究する。 すなわち、 教師が自分の意志決定過程や評価過程をふり返ることで、 暗黙知や身体知を包摂する自己の教授行動を意識化し、 対象化可能にする。 その可能性を研究するのである。

3 リフレクション研究の手順

 1) 問題場面の摘出 
 データ作成の時に、 発話プロトコル作成・映像プロトコル作成の過程で、 1分のデータを60分程度かけてくり返し視聴した結果、 仮説的に問題場面が複数提起された。 これと、 授業観察直後に参観者全員に書かせた印象批評メモを照合し、 さらに仮説的問題場面を再生視聴した結果、 問題場面を摘出した。
 ここでは、 漢字の仲間分けを示す 「学習内容の提示」 場面で、 学習者から 「わからない」 という発言があり、 作業が停滞している様子が観察された。 授業者はこの場面で、 幾つかの状況判断、 評価、 意志決定と対処行動を実施していることから、 分析対象として適当だと判断した。 その結果、 学習者と指導者の認識のずれを示す場面と、 授業者と観察者の認識のずれを示す場面とを摘出した。
 2) 授業者と観察者のVTR協同視聴
 @セルフリフレクション:
 授業者は実践過程の事中内省 reflection in action と事後内省 reflection after action または reflection on action を想起しながら、 両者を区別して記述する。
 A観察者は、 @を聞きながら、 上述の視点に沿って授業者への質問を準備する。
 3) VDRを用いた授業者の内省記述の録画:
 2) @を整理し、 授業者が内省記述を観察者に説明し、 これをVTRに録画する。
 4) VDRと諸データを用いた集団的リフレクション:
 観察者はVDR・学習者の調査結果・学習者のワークシートの分析結果を参照しながら、 授業者に質問し、 この課程をVTRに録画する。
 5) 再度のセルフリフレクションと観察者による整理:
 授業者・観察者は3).4).のVTR記録を再視聴し、 授業の問題場面を再評価し、 実践上の課題を明確化する。

4 問題場面の検討・考察

 3-1) で摘出した、 学習者と指導者の認識のずれを示す場面と、 授業者と観察者の認識のずれを示す場面を対象とする、 問題場面の検討と考察は以下のとおりである。
 1) 指導者と学習者の認識のずれの検討:
 授業者の 「この漢字を仲間にわけて」 という指示に対して、@ 「どういう意味?」 「意味がわからない」 (午後2時13分17秒から25秒までを以後 2:13:17 ― 2:13:25 と記す)A 「ねえねえ、 どういう意味?」 (2:14:41 ― 2:14:42) という反応を示す場面ここでは教師は 「できなくてもいいから」 やってみるように指示する。
☆指導者の内省記述 (セルフリフレクション)の整理 (学習プリントは図1のとおり)
 @Aの発言について、 指導者は実践過程で当初は次の(1)(2)を考えていた。 しかし、 授業を進める過程で学習者の作業が進まないのは(2)(3)によるものと考えるようになった。
(1)子どもの知らない漢字で、 意味がわからないため仲間分けができない。
(2)仲間分けの判断基準がわからない。
(3)仲間分けの作業の方法、手順がわからない。
 指導者が当初の判断を下した理由として、 次のように述べる。 (図1:学習プリント)
ア、 意味が分からない漢字でも、 どんな分け方になってもいいから、 とにかく仲間分けをするんだ、 という問題意識を持たせたい。
イ、 ほかに言いようが見つからなかった。
ウ、 説明やヒントが具体的すぎると、 答えがすぐわかってしまう。
エ、 とにかく子どもにやらせてみて、 どんなふうにするのか様子を見たかった。
オ、 子どもから見れば知らない漢字なので、形に注目させ意識させたい。
★集団的リフレクションでの観察者の指摘
ア、 (この対処行動は) 威圧的だと感じる。先生の焦りに、 子どもも反応しているのではないか。 教師の焦りから、 子どもの様子がつかめていないように見える。
イ、 (教師がこの場面でした板書と掲示物を使った) 手による仲間分けの動作と、 「しるし」 ということばは出ているが、 この指示が子どもに理解されていない。
ウ、 (こういう反応は必ずしも) ほんとうにわからないのではなく、 (自己主張の) 意志表示のときもある。 それに対応しすぎると、 考えない子になる。 不親切さも必要。抵抗感、 (問題を) 解く楽しみが必要だ。
エ、 教師がヒントを出すが、 映像から (子どもたちの) やっていない姿が多い。 書いているのは名前だけ。
オ、 手順がわかっていないのに、 授業者は中身の分け方の説明に気持ちがいっている。 (子どもと)意志の疎通ができていない場面がある。
カ、 「同じ仲間に同じしるし、 例えば…○を、…△を、 …」 (2:14:52) の説明までは、 滅茶苦茶なやり方をしていた子が、 しっかりやりだした。
キ、 できなくてもよい、 という授業者のことばを、 子どもは受容できていない。 授業者は、 この後、 授業を進めていく中で、 漢字の正しい仲間分けの意味を学びとればよいと考えているが、 子どもたちはそうは受け取れない。 潜在的に正しい答えを出すことが勉強だと考え、 また、 ふだんから要求されているのではないか。 だから、 やり方がわからないこととは別の次元でも、 幾度となく、 どういう意味、 わからない、 などのことばが出てくるのではないか。
図1 
☆集団的リフレクションでの授業者のことば
ク、 「はい、 できなくてもいいから…」 (2:18:49) と言うわりに、 「あと、 2分くらい」 (2:18:52) と、 できていてほしいという気持ちがあり、 長引いた。
 2) 授業者と観察者の認識のずれの検討:
 @子どもたちの様子を机間指導で見て回ると、 予想以上にできていた (2:13:17 ― 2:13:25)
 A 「思った以上にできているので驚いた。 見て、 確認している」 (2:14:41 ― 2:14:42)という授業者の判断に対する観察者の問題提起
☆期間指導中のreflection in action を説明するための再視聴での、 授業者の説明的記述
ア、 わからないと言ったわりに、 子どもはよくやっていた。
イ、 気になる子は気をつけて見るようにした。
ウ、 (8-9割が) できていることに驚き、 「みんな、 結構できてるね」 と言った。 (2:16:16)
エ、 学習プリントの中身を見て、 何カ所かで確認している。 (2:17:20)
オ、 ○ちゃん (学力低位児) で確認している。
カ、 学力的に中程度の子ができているかを確認している。
キ、 真面目な子だが間違うこともあるので、中身を確認している。 (2:17:11)
図2 VDR視聴の意義(フローチャート):二事例の reflection の位置づけ
★集団的リフレクションでの観察者の指摘
ア、 指導者は 「 8〜9 割ができた」 ―ウと言ったが、 VDRで映像で確認すると、 答え合わせのとき消して書き直している子が多い。 (2:21:17)
イ、 子どもの学習プリントをチェックすると、表1の結果が出た。 これによれば、 仲間分けが正しくできた子どもは少ない。
正解数 人数
4種類が正しく仲間わけできた 10 33.3
3種類が正しく仲間わけできた 3 10.0
2種類が正しく仲間わけできた 5 16.7
1種類が正しく仲間わけできた 4 13.3
正しい仲間わけができていない 8 26.7
表1:学習プリントの回答
 3) 授業者、 研究協力者=観察者の再度のセルフリフレクション
☆授業者のセルフリフレクション
 (1) 授業構想と評価についての理解
ア、 作業 (授業パーツ) の授業設計で、 どの時間帯にどんな作業内容をどの程度するかが、 明確でなかった。 ―目的・評価基準が不明確
イ、 その時点で行われている学習について、子どもたちにどこまで求めるのかの要求水準を明確にしなかったために、 全体のバランスを崩すような時間配分の実践になった。
ウ、 どの程度できたら、 良しとすべきか、 (何をねらいとするのか) を明らかにすべきだった。
 (2) 教材教具・プリントの問題
ア、 2種類の問題を1枚のプリントに印刷したことで、 子どもがどこに書くのか混乱した。
イ、 一問目の問題の漢字の配列の失敗。 (評価のむずかしさ。 配列が複雑。)
ウ、 黒板に掲示した漢字を仲間ごとに移動する操作に時間がかかる。 など
 (3) 児童への配慮
ア、 子どもにとってできることとできなかったことの意味と影響を考えて、 どの程度の問題を設定するか。 また、 授業の目的に照らして、 どの程度のヒントをどのタイミングで示すかが、 問題として残る。
 (4) 授業分析を通して
 自分は、 子どもたちに、 「『知らないこと』 を自分で 『知り』、 工夫しながら新しい知識を獲得していってほしかった。 そして、 そのような授業を意図していたのだ。」 ということが強く意識できた。 そのための手だての問題が多かったが。
 また、 自分が授業中に、 教室の児童を把握していたつもりが、 自分のはじめの印象 (「できている」 という) の影響を受けて、 状況を確実に把握できなかった点や、 適切な対応がなかなかできていない点など多くの問題点があることに気がついた。
★観察者=協同研究者のリフレクション
ア、 評価を中心とした分析の視点で、 今回の授業をみていくと、 評価基準設定の不明瞭さが問題になる。 例えば、 仲間分けとして、 くさかんむりなら、 4つできて良しとするのか、 一つ位は他の種類の仲間の方に入って良し、 とするのか、 ハッキリしていない。 「つくり」 「へん」 「かんむり」 に目を付けて分ければよいのか、 明確な基準が設定されていない。
イ、 「結構できてる」 と評価したのは、 まったくの感覚的なものによると言える。 つまり、 評価の信頼性が低い。 誤った観察が測定・評価に影響する。
ウ、 イに対して、 授業者はそのときには別の何かを見ていたのかもしれないと考えると、 一概に誤りといえるのかどうかわからない。 むしろ、 何を見ていたのか、 なぜ気づかなかったのかを追求する手だてを探すことが、 今後の課題となるのではないか。
エ、 問題内容の指示も不足している。 例えば、 子どもに漢字の仲間分けをした理由、 目をつけたところを囲む、 しるしを付ける、 などさせておくと、 教師は後で評価しやすい。 子どもの判断内容を知ることになり、 子どもがどこに仲間分けの根拠をもったのかの評価の妥当性を高めることにつながる。
エ、 今回のプリントでは、 子どもの漢字の囲み方が個々バラバラで、 わずかな机間指導では評価しにくい。

5 考察ーリフレクションの効果と問題

 ☆授業者によるまとめ
 1 授業研究演習システムを使って授業を分析することにより、 協同研究者と問題を焦点化し、 共有する視点を明らかにすることができた。
 2 発話プロトコル、 映像プロトコルデータを利用して、 問題を掘り下げて検討したが、 その結果、 従来の方法よりも明確な形で、 目標と評価が実践過程の意志決定に関わることを意識することができた。
(自由記述) この授業研究方法は、 多くのことを教えてくれたが、 研究には複数の目が必要なことが大変よく理解できた。 私は、 自分の考えで、 漠然と良いと思ってしていたことが、 実際の場面でまったく違った結果や他の人に別の印象でとらえられていることなどを知った。 つまり、 ひとりよがりの側面が、 具体的に指摘されたのである。 このことは大変有意義だった。
 今回もっとも強く意識させられたのは、 教育の目的である。 当然、 今までも意識していたつもりだったが、 目的と評価の明確な意識化が授業の成功の重要な鍵であることを、 これほど意識させられたことはなかった。 それは一つには、 このシステムを使って問題点を集団的に検討し焦点化してリフレクションすることにより、 マルチにデータを組み合わせて検討した結果、 自分の授業を映像・音声・文字データに基づいて評価することができたからである。 VDRを使ったこの演習システムは、 自分の授業を客観的に見つめ直すのに、 非常に有効であることがよくわかった。 日常的な校内研究会のような従来のビデオ利用では、 目的と評価を納得のいくまでみんなで検討しきれないところがあった。
 特に、 自分の授業中の様子を映像として見ること、 そして、 児童の様子と自分の行動を同時に観察することは、 自分の行動の意味や、 何のための行動か、 を常に自分を含めた分析者に問い返すものとして、 有効に機能していた。 また、 集団的リフレクションの話し合いの様子をビデオで見ることにより、 限界はあるだろうが、 自己の客体化もできる。 話し合いの映像を、 もう一度見直すことは、 辛い側面もあるが、 自分が何を求めてしていたのか、 さらに無意識の側面をも意識せざるを得ない状況に追い込み、 自分の行動の意味を客観化して評価を迫る。 さらに、 反省を映像として残すことによって、 追い込まれた授業者の反応を、 自ら客体化した形で、 もう一度反省を迫ることは、 大変刺激的な影響を与える。 そのためにも、 話し合いの映像記録も効果的であり、 必要である。
 ★協同研究者の見解1
 授業者は、 「もう一度、 授業を再設計してやってみたい」 という意気込みを示している。 その意味では、 自分に気づき、 自ら直すという授業リフレクションの目的を達成したのではないか。 ただ、 まだこれは、 授業者の前向きの姿勢が高まっただけであり、 実践的力量形成への足がかりをつかんだにすぎないとも言える。 授業者のこれからの継続的な自発的研究を期待する。
 さらに、 私たちは、 「リフレクションによって意識化されたことが、 今回は評価についてであったが、 逆に教師の指導を厳密化させすぎ、 授業全体の流れを、 停滞させる危険性がある。」 ということを留意しなければならないことに気づいた。
 ★協同研究者の見解2
 授業を行ないながら、 学習者ひとりひとりの行動をチェックするのは難しい。 特に教師自身が思考しながら授業を進めているときには、 学習者を見てしゃべっているつもりでも、 学習者の行動をまったく見ていない場合がある。 今回のふり返りでは、 2台のビデオカメラで学習者が全て入るようにしてビデオ撮影した。 この映像の中の見たい場面を瞬時に繰り返し視聴することで、 普段の授業では気づかなかった学習者の行動や言動がわかるようになり、 新たな発見 (たとえば授業者と学習者のずれ) をすることが多々あった。 このようにじっくり学習者すべての行動を見直すことが、 授業者には必要ではないだろうか。  このシステムで、 このような分析の事例を多く積み重ねて行きたい。
 ★協同研究者 (ゼミ指導者) の見解3
 経験者同志だと、 返って厳しい批判を言い合う危険がある。 その調整がむずかしいと思った。 私は観察中、 この授業はよかったと感じた。 よい、 の基準は、 子どもが教師との出会いを喜び、 仲間と交流しながら学習していたからである。 回り道や混乱は授業では避けられない。 そういう前提を外して、 抽出した問題場面だけを掘り下げると、 授業全体の評価は、 問題点をクローズアップして行うことになりかねない。
 中堅以上の教員の場合、 全体として授業を見る視点と、 細部を摘出して分析する視点の両方をバランスよく配置する必要があることを痛感した。

6 リフレクション研究の課題

 本研究は完成したばかりのシステムを利用した最初の事例研究である。 パソコンの利用経験がほとんどない現職教員が、 本システムの利用方法を習得するには多くの努力を要した。 今後の課題としてまず考えるのは、 複雑なマルチメディアシステムを理解し、 利用するためのリテラシー教育と利用環境の整備である。
 第二に、 リフレクションの方法を正確に伝えるアドバイザーまたはスーパーバイザーの問題である。 この手法が教師の日頃の研究方法から開発したものであるため、 教師たちが研究方法を明確に意識して研究を進めるためには、 援助者、 助言者が必要ではないかという問題である。 特にデータ作成と分析の手法で精度を高め、 考察を深めるためには、 この点で適切な助言と援助が必要だと考える。 とはいえ、 これは開発途上の問題でもある。 教師たちの研究集団が自立すれば、 研究に関わるアカデミズムの研究者の位置も共同研究者として安定するものと考える。
 第三に、 リフレクションの対象と方法の明確化の課題がある。 これは事例研究を蓄積して明確化できるものと考える。 最後に、 リフレクションの意義が大きいと同時に、 その問題点もある点である。 今回の研究でも、 それが幾つか提起された。 例えば、 問題点を強く意識しすぎたために、 なめらかで自然な教授行動が阻害された形跡がある。 そういう問題解決の展望も、 今後の検討課題となる。

付記

 本研究は1995年度大学院教育学研究科 「教育方法学特論演習」 で現職教員と大学院生が協同で進めた研究を発展・考察したものである。
 本研究は科学研究費補助金基盤研究(c) 「教師の発達を支える授業リフレクション研究方法の開発」 課題研究番号07680226 による。

補注

1) 澤本和子 (1996) 「授業リフレクション研究の三形態」 澤本和子・お茶の水国語教育研究会編著 『わかる・楽しい説明文授業の創造-授業リフレクション研究のススメ』 東洋館出版 1996年 pp.11-12
2) 澤本和子・佐藤博他 (1995) 「実践的力量形成のための授業研究演習システムの開発 - マルチメディアシステムを利用した授業データ作成」 日本教育工学会第11回大会課題研究発表JET.Nov3-4, 1995年. pp71-72

*チェック済み(97/7/28新藤,97/8/3成田)